公的年金過払い 減額先送り、現役にツケ

 公的年金は現在、特例措置で本来より2・5%高い金額になっている。政府は年金を減額して本来の水準に戻す法案を今国会に提出したが、成立は次の国会以降にずれ込む。減額の実施が遅れる見通しとなっており、世代間の不公平が拡大しそうだ。

 「今受け取っている年金は、本来の金額より多すぎる」と言われても、多くの高齢者は、そんな実感など持てないだろう。

 だが、高齢者に支給されている基礎年金(国民年金)や厚生年金などの公的年金は、本来より2・5%高い金額になっている。

 年金には物価変動に合わせて毎年、金額を改定する仕組みがある。物価が下がればその分、金額を減らすのが本来のルールだ。

 ところが、1999~2001年に物価が下落したのに、当時の自公政権は高齢者の反発を恐れて年金額を減らさず据え置いた。「いずれ物価が上昇した時に、年金額を据え置くことで実質的に目減りさせ、本来の水準に戻す」という考えだったが、その後もデフレが続き、本来より高い状態が解消されていない。

 野田政権は2月、社会保障・税一体改革の一環として、この2・5%分を解消する法案を今国会に提出した。年金を今年10月分から0・9%減額し、さらに13年度と14年度にも0・8%ずつ引き下げる。これによって計2・5%減額し、本来の水準に戻すという内容だ。過去の払い過ぎ分の返還は求めない。

 だが、与野党ともに次の衆院選をにらみ、高齢者の反発が予想される法案の審議に消極的な姿勢が目立った。このため、法案はたなざらしの状態が続いた。

 国会は、8月29日に参院で野田首相の問責決議が可決され、9月8日の会期末を前に事実上の休会状態となった。厚生労働省は今国会での法案成立を断念し、減額開始を来年度に先送りする方向で調整する。

 さらに、今後もし成立しないまま衆院が解散されれば、法案は廃案となり、減額は白紙に戻る。

 与野党の対応は、あまりにも無責任だ。

 年金の払い過ぎは年約1兆円のペースで続いており、9月分までの累計は約7兆5000億円にのぼる。積立金の取り崩しで年金財政は悪化しており、現役世代が高齢者になった時の、想定外の給付カットにつながりかねない。ツケが若い世代に先送りされ続けている構図だ。

 高齢者の暮らしも決して楽ではないが、現役世代もデフレ経済で賃金が低下し、雇用も不安定になっている。しかも、公的年金は保険料を17年まで毎年引き上げることがすでに決まっており、負担は重くなる一方だ。

 さらに、今回の減額とは別に、04年の年金改革では給付水準をより本格的に引き下げる「マクロ経済スライド」が導入された。払い過ぎの2・5%をまず解消しないと、この新たな仕組みも発動されないルールになっており、年金財政が不安定な状態が長期化する。

 高山憲之・一橋大特任教授(公共経済学)は「年金の減額はやむを得ないのに、国会議員は選挙を優先し、本来の役割を放棄している」と指摘する。

 高齢者の多くは、年金の減額に釈然としないだろう。本来は政治家が率先して理解を求める必要があるはずだ。政府・民主党だけでなく、払い過ぎの原因を作った自民、公明両党の責任も重い。与野党は早急に法案を成立させるべきだ。(編集委員・石崎浩)

2012年9月12日 読売新聞)

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