パニック障害(4)北島先生から再出発の曲
2011年11月、北島三郎さんの大阪公演に付き人として同行した。
「声が出る範囲でいいから、やってみようか」
宿泊先のホテルで北島さんが毎日、自らピアノを弾いてレッスンをしてくれた。少しずつだが自信が出てきた。北島さんは楽屋でも「紙とペンを持ってきて、私が言う言葉を書きなさい」と命じた。何の作業か分からなかった。
1週間後、北島さんからカセットテープを手渡された。再生すると、自分が書かされた言葉を北島さんが曲にして歌っていた。
「おまえの再出発の曲なんだぞ」。先生の言葉にこみ上げた。もっとも、11年末までは正直、気力がわかなかった。
年が明けると、不思議と気分が改まった。「だめでもともとと。やってみよう」と、思い切ってレコーディングに挑んだ。普通はガラス越しに外から見える部屋で録音するが、他人の視線を気にせずに済むように、密室で歌った。ヘッドホンで北島さんの指示を受けながら歌った。緊張はしたが、気持ち良く歌えた。
録音後、「裕、聴いてみろよ」と北島さんが歌を再生してくれた。涙が止まらなかった。北島さんも眼鏡の下から涙がこぼれていた。その場にいたスタッフもみんな、もらい泣きした。
「歌えた」。録音CDを手に帰宅した。久しぶりにウキウキした気分だった。
(2012年8月30日 読売新聞)
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