救急の現場から

救命士本来の役割とは

 「先生、35歳女性のアッペのお願いです」

 アッペとは、医者が使うスラング(俗語)で急性虫垂炎のこと、いわゆる盲腸である。

 「どこで、アッペだと言われたの?」

 「傷病者から聞いたところ、昨日から下痢と腹痛があって、本日になり、痛みが右下腹部に限局してきたということでしたので」

 「だから、それは、お前さんの考えなのかい?」

 電話をかけてきた救急隊員は、若い救急救命士である。

 「はあ、別の病院にかけたところ、アッペなら、手術ができるところの方がよいと言われまして……」

 医学的知識を学び、高度な処置を施すことが許された救急救命士なる国家資格が誕生し、20年以上が経過した。特に、心臓が止まり呼吸も停止している心肺停止患者に対する病院前救護(現場から救急病院に着くまでの間の応急処置)の担い手として、救急救命士たちは活躍している。中には、医者顔負けの知識や技能を有している者もおり、救急医療における彼らの存在は、年々大きなものになってきている。

 しかし、傷病者を適切な救急医療機関へ、安全かつ迅速に搬送することが、救急隊本来の役割である。もちろん、搬送先の病院を選定するにあたって、病態を正しく把握することは重要だが、そのために現場での処置に時間を費やしたり、生半可な医学的知識を振り回したりすれば、傷病者に致命的な結果をもたらすことにもなりかねない。

 ま、もっとも、彼らにしてみれば、ちまたの救急病院こそが頼りないから、ということなのかもしれないが……。(救急医・浜辺祐一)

2012年8月16日 読売新聞)

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