難病に向き合う大野更紗さんインタビュー全文(4)どんな「くじ」引いても、希望持てる社会に
――病院だったら楽だったのに、と思うことはないですか。
「やっぱり娑婆(シャバ)はいいですよ。病院は医療の世界で、医療の論理で動く。それが生活の場に移ると、少しずつ選択肢が広がっていくんです。『ここが社会なんだ』『自分は社会的な存在なんだ』と思ったのは、退院して在宅生活に入ってからでした。もちろん、いろいろ大変です。ただ、難病の在宅生活のマニュアルがないなら、自分が切り開いて行くしかない、と思っています」
――出版社のホームページでブログを始め、それが反響を呼び、2011年6月に「困ってるひと」が出版されてベストセラーに。どうして書こうと思ったのですか。
「退院の少し前から、『せっかく非常に珍しい体験をしたのだから、社会に発信したい』と思うようになりました。知り合いの作家の方に、ポプラ社を紹介してもらってブログ形式で連載を始めました。更新するとわっと反応が来るようになりました。そうした見えない声に背中を押されるように書いた感じです。本になると、さらにたくさんの反響が来ました。私がすごく驚いたのは、難治性疾患の患者さんの圧倒的多数の反応は『ずっと同じことを思っていたんだけど、言えなかった』『社会に発信する手段がなかった』というものでした。だから、できるだけたくさんの『困ってる人』から話を聞き、その中から知見とか、社会的な要素を抽出して、それをどう生かすかを考えていきたいと思っています」
やせ細った「小さい政府、小さい社会」…補完が必要
――日々大変なことが起こる暮らしの中でも、前向きでいられる秘訣は何でしょう。
「いや、私はすごく後ろ向きですよ。一日に何度も『もう死にたい』とか『あきらめよう』とか思います。でも、困ったことがあると、誰かが助けてくれるんですよ。役所の人だったり、近所の人だったり、知人だったり。ただ、一般的には、今の日本って、社会保障制度も立ち遅れているうえに、それを補完するはずの地域社会の機能も脆弱になっている。『小さい政府、小さい社会』なんだと思います。すごくやせ細っているこの両方を、両方とも補っていく必要があると思います」
――最近の生活保護の問題でも、行政側は「できるだけ家族や親族で扶養しろ」との考え方ですよね。
「それは、ノスタルジー以外の何ものでもないと思います。社会全体にかかるコストの総量って変わらないと思うんです。公的な社会支出が削減されれば、誰かが何らかの形でそれを負わなければならない。例えば、病気の人や障害を持つ人を介護するための社会的な給付が切り下げられたら、主に奥さんとか娘さんとかが家にいないといけなくなり、働けなくなってしまうわけですよね。これからどんどん高齢者の割合が増えていくことを考えても、家族で担いきれない部分を、どうやって社会で支えて行くのか。公的な社会制度を充実させつつ、NPO(非営利組織)や地域社会の仕組みを生かすことなども含めて、この転換期の混乱に、いかに知恵を絞り出すか。私は難病という『くじ』をひいたわけですが、認知症の人や障害を負った人、どんな『くじ』をひいても、希望を失わないで生きていける社会を作りたい。そのために、作家として何ができるのかを、日々考えています」(終わり)
(2012年8月1日 読売新聞)
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