基調講演(4)男性はもっと楽天的に人生楽しもう…鎌田實さん
48歳のとき、パニック障害に
ここからは、心の持ち方をどうしたらいいのか、お話をします。
48歳のときに、僕はパニック障害になりました。自分は強い人間だと思い続けていましたが、病院経営がすごく大変で、しかも僕はあったかくて優しい病院にしたいと思って必死だったんですね。院長をやりながら外来もやって、そして往診にも行って、若い医師を教育していました。
あたたかな医療をしながら病院の経営も黒字にするっていうのがとっても大変で、結局、綱渡りだったんですね。
往診に行ったら冷や汗が出てきて、脈は早くなるし、院長だから往診のときも自分で運転しないで運転手さんがついてきてくれたんだけど、車から出られないんです。パニック障害でした。まさかと思いましたね。
過重なストレスがずっとかかってくると、心が疲れてきます。僕はそのパニック障害から脱却するのに、少しの間だけど、半年ぐらい精神安定剤を使いました。
もともと朝早く起きる生活習慣を持っていましたけど、眠れないんですね。1時間ぐらい寝ると、もう午前2時とか3時に目が覚めて、胸がどきどきしてくる。ベッドにいても落ち着かなくて、自分の部屋をうろうろしてもおさまらなくて、散歩に出てもおさまらない。もともと結婚したときから奥さんと寝室が違うんですね。病院から電話がかかってきたらいつでも飛んでいけるような体制にしていたんです。
震えが来たら、奥さんの部屋に行きます。体をおさえてもらわないと不安で不安で。で、奥さんにぎゅっと押さえてもらいました。ありがたいと思ったのは、奥さんがあんまり──多分、奥さんは面倒くさくて眠かったんだと思うんですけど──あんまり根掘り葉掘り「どうしたのよ」とか聞かれないで済んだことです。余分な話をせずにぎゅっとしてくれたのは、救いだったと思います。
今のストレス社会の中で、ちょっと気持ちが鬱々として物事を悲観的に考えてしまう人が8人に1人くらい、うつ病の人は約100万人いるのではと言われています。
うつ病は、脳内でセロトニンなどの神経伝達物質が不足するために起こるといわれ、抗うつ薬はこの神経伝達物質を減らさないように働きます。でも、病気でない人は薬に頼らなくてもいい。美しい景色を見て感動したり、おいしい料理をたべて感激したりしたときにも、セロトニンは分泌されます。
夕日が出る頃、女性は夕食の準備で忙しい、サラリーマンも一番仕事が忙しい時ですよね。だから夕日どころじゃないかもしれないけれど、「うわー、夕日がきれいだな」と思うと、セロトニンが出てくるわけです。
おじいちゃんから「おお、夕日がきれいだぞ」って言われて育った孫は、今度は友達同士でいるときに「おーい、夕日がきれいだぞ」って言うようになるでしょう。そういう子はセロトニンを分泌するトレーニングができているわけです。
感動すること…自分の健康守ることにつながる
感動するということは、どんなちっちゃなことでもいいんですよ。道端の原っぱに小さな花が咲いているのを見て、「頑張ってるな」とか「きれいだな」って思う。これだけでも、自分の健康を守ることにつながるのです。
人生を楽しんでいない男性は、楽しんでいる男性と比べて、脳卒中や心筋梗塞、狭心症による死亡率が2倍程度も高まるそうです。男性はもっと楽天的に人生を楽しまないと、死亡リスクが高くなります。
セロトニンと同様、オキシトシンという“幸せホルモン”は、お母さんが赤ちゃんにおっぱいをあげている時に脳内に分泌され、感染症の予防やストレスの緩和、生きる力になると言われています。お母さんだけでなく、出産を終えた女性、そして男性でも、相手の身になって何かしている時にオキシトシンが出ることが分かりました。(続く)
(2012年7月23日 読売新聞)
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