エンゼルケア・死後の身支度 家族とともに
看護師だけで行ってきた亡くなった人の死に化粧(死後の身支度)に、家族に関わってもらう病院が増えている。遺体に触れる死に化粧の時間を家族の悲しみを癒やす機会ととらえ直す試みだ。
別れの悲しみ癒やす機会
病院で亡くなった人の死後の身支度は看護師や葬儀業者によって行われ、従来、家族は遠ざけられてきた。この身支度を亡くなった患者に対する看護師の「最後のケア」と位置づけ、手厚い形にしたのが「エンゼルケア」だ。
看護師の小林光恵さんが2001年に研究会を作り、著書や講演などを通じて広まった。
小林さんは「亡くなった直後は、家族にとって非常に貴重な別れの時。そんな大事な時に病室から出てもらい、看護師が持ち寄った化粧用品で死に化粧などを行うことに心苦しい気持ちを抱いてきました」と説明する。
研究会では、家族が抵抗感を抱かない化粧道具や家族との会話の進め方などを検討してきたという。顔色の変化が目立たないよう下地クリームの品数を増やした死に化粧専用の化粧セットも作った。
静岡県牧之原市の
看護支援室長の名波まり子さんは「遺体に触れる機会がめったにないためか、『ご一緒にいかがですか』と誘っても、遠慮する家族もいます」と話す。しかし、病室内で着替えや化粧の様子を見守るうちに、徐々に参加することも少なくないという。
死に化粧をすることで、家族はどんな気持ちを抱くのか。名波さんは、祖母をみとった女子大学生から受け取った手紙を紹介する。
「『最後に着替えやシャンプー、化粧をさせてもらいました。きれいで安らかになった表情、触れた頬の冷たさ、化粧品の香りが今でも私の五感に残っています。つらいけれど、祖母の死を受け入れられました』という感謝の気持ちが記されていました」(名波さん)
生前、気に入っていた衣服などへの着替えも行う。うち沈んでいた家族も、看護師の問いかけに思い出話を始めることがあるという。
「亡くなった父親に息子が『初めてだな』と照れながらネクタイを結んだり、おしゃれな和服の訪問着を娘が母親に着せたりしています。このような時間を最後に持つことは別れの悲しみを少しでも軽くすることにつながるのではないかと思っています」と名波さんが話す。
エンゼルケアは、葬儀業者が行う遺体の処置サービスと似た内容だ。そのため、葬儀業者の中には、病院側と話し合い、家族が望まない限りは、あらためて死後の身支度を行わない業者もいるという。
全体的に見れば、エンゼルケアを行う病院はまだ少数派だ。小林さんは「エンゼルケアは、生前から続く医学的なケアの延長線という面があります。8割の人が病院で亡くなる時代。普及に一層力を入れていきたい」と話している。(渡辺理雄)
| エンゼルケア |
|---|
| 医療的な考えに基づき、看護師が行う手厚い処置。点滴や医療機器の片づけ、体・頭髪などのシャワー浴、死に化粧、衣服の着替えなどが行われる。死後の処置は診療報酬の対象外で、料金は数千円から数万円まで、施設によって違いがある。 |
(2012年7月12日 読売新聞)
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