緩和ケア医・岡部健さんインタビュー全文(2)ほとんどの人、穏やかに死ねる

 ――緩和ケア医師でも、死は怖いものですか。

 「怖くないと言えばうそになりますが、私には、死ぬことのお師匠さんはたくさんいます。看取った患者さんたちです。元の外科医のままだったら、もっとあたふたしていたでしょう」

 「人が死ぬのを見ると、死に対する意識が変わります。死ぬのは苦しいことと思われがちですが、呼吸不全でも臓器不全も最後は意識障害になり、夢の世界に入り、苦しくありません。緩和ケアという道具を使って、そこに至るつなぎをうまくやってやれば、ほとんどの人は穏やかに死ぬことができます」

 「在宅で看取れば、本人が衰えて死が近づくに従い、呼吸が弱まるのを見つめて家族は『もう、この世から去り、戻ることはないのだな』と実感します。その時間の経過を覚えて、次の世代に継承していくことができます」

在宅での看取り、経験ない人多くなる

 ――でも日本では病院で亡くなるのが当たり前です。

 「昔は自宅で亡くなるのが普通だったのに、逆に病院死亡の割合が高い時期が長く続き過ぎて、在宅での看取りの経験がない人が多くなりました。在宅だと医師も看護師もいないので、家族は死を見守ることに不安がつのり、逃げ出したくなります。それで病院に『お願いします』となるのですが、病院の方も『おいでおいで』でいいのでしょうか。確かに、そうすれば家族は面倒くさくない。ベルトコンベアに載せたようなもので、ブラックボックスの中で亡くなって出てきます。看取りの過程がない死が増えて、そうした経験しかない家族に看取りはできなくなります」

 ――在宅ホスピスに取り組んだきっかけは何だったのですか。

 「宮城県立成人病センター(現・がんセンター)で肺がん専門の外科医として働いていた40代前半のころ、治癒が望めない患者が自ら退院してしまい、初めて在宅での看取りを経験しました。住み慣れた家で家族に囲まれて、身体的にも、社会的にも、病院よりもはるかに患者に良かった。『一体、おれは何をやっていたのか』と思い、終末期の患者をどんどん家に帰しました。あるおじいちゃんを家に帰したら、2~3か月も生きて驚きました。当時は、一つ一つの経験がとても新鮮でした」

 「在宅緩和ケアをやろうと、1997年に岡部医院を開きました。在宅で良い看取りをするためにはどうするかと考えてやっていたら、医師や看護師だけでなく、作業療法士やソーシャルワーカー、介護員、鍼灸師(しんきゅうし)、臨床心理士チャプレン(病院付き技師)など多職種の緩和ケアチームが出来てしまった。結果的に、それは他の国の在宅ホスピスと同じやり方でした」(続く)

2012年6月29日 読売新聞)

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