映画監督・都鳥伸也さんインタビュー全文(1)秋田での自殺予防の取り組み、ドキュメンタリーに

 14年連続で3万人を超えた日本の自殺者。国内で最も自殺率の高い秋田県での、市民による様々な自殺予防の取り組みを追いかけたドキュメンタリー映画「希望のシグナル」の公開が始まった。岩手県在住の監督、都鳥伸也さん(29)に映画に込めた思いを聞いた。(岩永直子)

都鳥伸也(とどり・しんや)
 岩手県北上市在住。2004年、日本映画学校卒。映画「いのちの作法」「葦牙―あしかび―こどもが拓く未来」をプロデュース。「希望のシグナル」が初監督作品。双子の兄拓也さんは撮影・編集を担当。「希望のシグナル」の公式ホームページはこちら。7月13日まで、東京都中野区のポレポレ東中野でモーニングショーで公開中。連日午前10時半より。

自殺願望持つ前段階の支援に興味

 ――なぜこのテーマで映画を作ったのですか。

(C)『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部

 「それまで自殺問題に関心を持っていなかったのですが、映画でも登場する佐藤久男さんの本を読み、自殺願望を持つ前の段階の支援に興味を抱いたんです。経営していた会社の倒産経験がある佐藤さんは、経営者仲間の自殺をきっかけに、NPO法人「蜘蛛の糸」を作り、経営者の生活再建を手助けしている人です。倒産寸前になった経営者たちは、みんなこれで終わりだと思い詰めているのですが、自己破産してもいいからとにかく自分の命は守れ、という価値観の転換をさせようとしています。色々な条件が重なって弱っている人に、様々な支援をしながら、その人が本来持っている力を復活させるような対策に、とてもひかれました」

 ――経営者だけでなく、日本の中高年世代のサラリーマンは、仕事しか居場所がない、そこがだめになったら全部終わりという価値観で生きてきた人が多いですよね。

 「自分たちの作った社会の仕組みに、自分たちががんじがらめになっている印象を受けます。経営はこうでなければならないとか、常に成長し続けなくてはいけないとか。そんな価値観に対して、1回リセットボタンを押してあげるというのが、佐藤さんの活動だと思います。その人の中で『正しいんだ』と思い込んでいるものをずらし、修正してあげる支援だと思います」

 ――佐藤さんはある意味、自殺の危険性の高い人への支援ですが、映画全体としては、そのもっと前の居場所作りや、人と人とのつながり作りを中心に追いかけていますね。なぜ、早い段階での支援に注目したのですか。

 「僕自身の経験として大事なことだと実感したからだと思います。ドキュメンタリー映画なんてもうかる仕事じゃないし、僕らもコンビニのアルバイトで食いつなぐ毎日です。それでも続けていられるのは、地域の友達と一緒に飲んだり、そばに誰かがいて話し合えたりすることが支えになっているから。その実感が自殺対策との接点になりました」

身近な支え、「点描」のように存在することが大事

(C)『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部

 ――登場人物の一人である僧侶で、「心といのちを考える会」会長の袴田俊英さんは、100円でコーヒーが飲める場所「コーヒーサロン よってたもれ」を町内に設け、地域の絆作りをしています。自殺対策としてはまどろっこしいと見る人もいるかもしれません。

 「自殺対策を、特別なことだという感じにはしたくなかったんです。自殺が多いことで知られる東尋坊で思いとどまらせる活動や自殺相談などは最後の(とりで)だと思いますが、そこで自殺を止めたとしても、その後、その人が生き続けられるように支えていくことはとても難しい。追い詰められる前に、誰でもできる身近な支えが、あちこちに「点描」のように存在することが大事だと思います」

 ――民間の活動ばかり追っていますね。行政とか、研究者ではなく。

 「民間が主体になっているのが秋田県の自殺対策の特徴で、それぞれがいいところを出し合い、後から行政や大学が連携してくる。中心になっているのは民間で、しかも、顔の見える知り合い同士のつながりから官民学の連携が生まれています。皆、自発的で、思いが先に立ってできた活動で、自分たちの生活に密着して活動しています」

 ――自殺対策と本人たちは意識していないよさこい踊りのサークル「素波里 狢(すばり・むじな)」も登場しますね。

 「本人たちは地域作りの活動としてやっているのですが、結果的に孤立を防ぎ、自殺を防止していると感じました。参加者の中には、職を失って先が見えない人も、離婚して一人で子どもを育てている女性たちもいるんです。そんな人たちにとって、居場所があり、仲間がいるということは、生きる力になると思います」

 ――様々な支援が点描のようにあればということですが、踊りは苦手という人もいそうですよね。そういう人は別の集まりやつながりがあればということですか。

 「現代が恵まれているのは、色んな文化がそれぞれ認められて、一色にはなっていないことですよね。映画だって、音楽だって、これが本物だ、正解だというものはなく、その人の感性に合ったものがその人にとって一番大切な映画や音楽だったりする。趣味や文化が細分化されて、色々な居場所ができているのです。一つ危惧しているのは、同じ価値観を持った人たちだけで固まって、ほかは排除するということ。そうではなく、互いの価値観を認め合って、それでも僕はこれだと言え、仲間ができる。そういうつながりが持てる時代だと思います」

 ――趣味を入り口にして、インターネットでも、見知らぬ誰かとつながれる時代ですよね。

 「ネットも良し悪しですよね。引きこもるのではなく、ネットを通じて知り合って、外に出て新たな友人関係を作っていくというのもありますよね。僕もフェイスブックで知り合った人と、実際に今度会いましょうよと言って会って、つながることもある。他人につながる道具として使うなら、利点はあると思います」(つづく)

2012年6月21日 読売新聞)

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