[精神科医が語る認知症](2)工夫次第で入院回避
当院で、私が往診した事例をご紹介しましょう。
75歳の男性です。午前中は穏やかなのですが、夕方からいらいらすることが増え、夜には表情が変わって、大声を出したり、ささいなことで包丁を持ち出したりするようになりました。困り果てたご家族が、入院の相談に来院されました。
もともと頑固な方で、精神科病院に来院してもらうことなどできそうにありません。ご家族の話を聞く限り、認知症そのものは軽いようなので、入院の件はお断りして、私が往診することになりました。
「精神科病院から来た」と言うと、ご本人は診察を拒否されるかもしれません。市役所から健康診断に来たという形にしました。ご本人は「わざわざ役所から来てくれた」と喜んでくれ、診察の後、色々お話をすることができました。
すると、不眠症で、睡眠導入剤を20年以上も使っていたことがわかりました。そこに認知症が加わり、夕方から夜間にかけて落ち着かなくなっていたようです。認知症の方が睡眠導入剤などを服用することで、症状が悪化してしまうケースはよくあります。
でも、お願いしても睡眠導入剤の服用はやめてくれません。ご家族と相談のうえ、落ち着かない状態を改善する薬を処方することにしました。副作用が出やすいため、少量から始め、数日ごとにご家族と電話で連絡を取って量を調整します。幸い2、3週間で症状は治まりました。症状に応じた処方薬で2年が過ぎた今も自宅で元気に暮らしています。
入院をお断りしたときには、ご家族は落胆されたのですが、落ち着いた本人と暮らすことができて、喜んでいらっしゃいます。工夫をすれば、精神科入院以外にも対処方法はあるものなのです。(上野秀樹、海上寮療養所勤務)
(2012年6月4日 読売新聞)
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