[読み得 医療&介護]男の介護、のめり込まずに

 親や妻を介護する男性が増えている。悩みを少しでも和らげたり、仕事と両立させたりするには、どうすればいいのか。男性が介護に向き合う際の心構えを探った。(野口博文)

仲間との交流で気分転換

 「精神的な余裕を完全になくし、いつもイライラしていた」。神戸市の男性(79)は、認知症の妻(74)を自宅で3年間介護していた時のことをそう振り返る。

 夜は何度も起こされ、睡眠不足に。オムツに排便するたびに、嫌がる妻を風呂場まで連れて行き、シャワーで洗い流した。妻がデイサービスに行っている間に仮眠。洗濯や食事の支度もこなした。夕方になると、「わーわー」と言葉を発する妻に、「黙ってくれ」とどなり、顔をひっぱたいたことも。後悔を重ねた。

 近所に、胸の内を明かせるほど親しい人はいない。デイサービス利用者の家族会に顔を出したが、大半は女性で、「大変なのは当たり前よ」という視線を感じた。そんな時、偶然、兵庫県宝塚市で、男性介護者だけの交流会が開かれるのを知り、参加した。自らの体験をじっと聞いてくれた。妻は昨年8月に施設に入居。「悩みを打ち明けられたことで肩の荷が軽くなった」と男性は話す。

悩み打ち明け

 男性介護者は、悩みを相談できずにストレスを抱え込む傾向があり、排せつや入浴介助、炊事などに困難を感じている――。各種調査から浮かび上がった姿だ。

 厚生労働省の調査によると、男性が在宅介護の担い手になるケースは増え、今では全体の3割に。一方、家庭内の高齢者虐待の加害者は男性(息子と夫)が6割を占める。立命館大学の津止正敏教授(地域福祉論)は、「男性は責任感が強く、介護にのめり込みやすい。女性に比べ、愚痴を吐き出せる場面が極端に少なく、つらさを抱えたままで孤立しがちだ」と指摘する。

 そうした時に役に立ちそうなのが、男性介護者の会だ。京都市内で交流会を開く「男性介護者を支援する会」代表の山内輝昭さん(67)は、料理の経験が乏しいという男性には「自分のためにおいしいと思える料理を作ってみては」と勧める。交流会では料理教室も企画している。

 また、女性用トイレに付き添ったり、女性用下着を買ったりした時に、周囲に誤解された体験を持つ男性も多い。そんな人たちの助けとなりそうなのが、静岡県が考案した「介護マーク」だ。首からマークの札を下げれば介護中と知らせることができる。交流会では、介護を楽にするための情報も得られる。

 認知症の母親(96)を介護する堺市の明野貫次(かんじ)さん(67)も、交流会に参加して気分転換をしている。「排せつ介助など、9割はしんどい。でも、残り1割は、親孝行ができる幸せがある」と明るく笑う。

 交流会が身近になくても、広報誌などで呼びかけ、数人集まれば始められる。社会福祉協議会の職員など一緒に考えてくれる援助者に加わってもらうのも手だ。山内さんは、〈1〉曜日や時間を固定する〈2〉喫茶店や公共施設など、費用がかからず継続的に使える会場を選ぶ〈3〉互いの発言を否定したり、説教したりしない――ことを運営のコツに挙げる。

仕事との両立

 仕事との両立も大きな壁だ。介護や看護を理由に離職した男性は年間2万5000人を超える。「大切なのは、上司や同僚に率直に打ち明けることだ」と、東レ経営研究所研究部長の渥美由喜(なおき)さん(44)は言う。

 両立策を企業に助言している渥美さんは、自身も認知症の父親(77)を介護しながら働いている。徘徊(はいかい)する父親の見守りで睡眠不足に陥り、離職を考えた時期もあった。それでもパソコンを常に持ち歩き、父親の後を追いかけながら取引先と通信で打ち合わせをするなどの工夫を凝らしている。

 昇進に響くことなどを心配する人もいるが、職場に伏せて仕事が遅れると、かえって周囲に迷惑をかける。「時間に制約がある人は、効率的に働かざるを得ない。生産性が向上した社員は、会社にとっても財産になる。仕事をあきらめないで」と、渥美さんは助言している。

 男性介護者と支援者の全国ネットワーク(http://dansei-kaigo.jp/)の会報には、各地の交流会の連絡先などを掲載。全国から募った男性介護体験記も第3集まで出版した。

男性介護者の心得5か条
〈1〉介護や看護は、大切な家族の終末期の生活プランを再設計する一大プロジェクトと受け止めよう
〈2〉体力の要る介護は男性向き。加えて、仕事で培った精神力や情報収集力、人間関係構築力を駆使すれば、必ず乗り越えられると信じよう
〈3〉1人で背負い込まずに、堂々と人に頼る勇気を持とう
〈4〉さりげない介護が理想。「ありがとう」の言葉は自分から贈ろう
〈5〉完璧さを目指す代わりに、毎日、小さな「良かったこと」を探し、ノートに書き留めて読み返そう
(渥美さんへの取材に基づき作成)

2012年6月3日 読売新聞)

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