[本人の思い]タエさん(下)自分らしい生活、地域で
金銭管理、服薬の確認…様々な支援
生活するには日々の金銭管理も欠かせない。タエさんの場合、散乱したゴミの中からガス代など公共料金の請求書や役所からの郵便物が出てきたため、滋賀県東近江市社会福祉協議会が実施する「日常生活自立支援事業」を契約した。
当初、タエさんは契約したことを忘れ、「通帳がなくなった」と甥夫婦の家に駆け込むなどの騒ぎが続いた。しかし、何度も説明を繰り返し、現在では、月2回決まって訪れる担当者との信頼関係もできた。
持病のあるタエさんは、きちんと服薬しなければ発作が起きてしまうが、やはり薬を飲むことも忘れてしまう。そこで、花戸医師と薬剤師の大石和美さんが相談。一日3回服薬するところを1回ですむように調整し、毎朝、ヘルパーにタエさんが服薬するのを確認してもらうことにした。
その際、大石さんは、忙しい仕事の合間にヘルパーが一目で薬を飲んだかチェックできるようにと工夫した。数種類ある一日分の薬を一包みにして赤字で大きく日付を書き、厚紙に張り付け、カレンダーのように壁にかけて保管する方法を考えた。毎月、大石さんがタエさん宅に訪問して本人に手渡すことで、体調なども確認している。薬を飲み忘れてしまうタエさんも、薬があることが分かって安心するという。
◇
地域の人と専門職がチーム…安心な暮らし実現
「普段はテツとテレビを見とるが、友達が遊びに来てくれるし、近所の商店に買い物にも行く。散歩に出て友達に会うと1時間でもおしゃべりするしな」
そんな日々を送るタエさんは、「動けるうちはここで暮らしたい。家は自由で気ままがきくし、テツもおるで」と語る。そのために毎日、散歩を欠かさないのだともいう。
今は状態も落ち着き、いつも笑顔を見せるタエさん。そんな様子に、花戸医師は「周りの多くの人に、日々支えられているという安心感によるものだろう」と、“地域の力”を痛感している。
実際、専門職だけではない。近所の人たちが「散歩の途中、あの辺で長いこと休んだはった」「今日は見かけんかったけど具合悪いんか?」などと気遣って、甥夫婦に電話や訪問などで様子を教えてくれることもしばしばだ。共働きで子育てに忙しい甥夫婦も、「一緒に住んでない分、気づけないこともあるが、地域の目もあり全く独りではないので、そんなに心配はしていない。おばさんも家がいいと思っているので、皆さんの力を借りながら私たちも何とか支えていきたい」と話す。
こうした地域のチームプレーに、自身も支えられているという花戸医師。「認知症だから、一人暮らしだからといってすぐに施設などに入れてしまうのではなく、つながりを持つ地域の人と専門職とがチームとなって、その人が安心して暮らせるよう支える。認知症高齢者が増える中、そんな『本人の思い』をかなえる地域づくりが一番大事なんじゃないでしょうか」――と、問いかける。
日常生活自立支援事業 介護など福祉サービスの利用手続きや、通帳などの預かり、公共料金支払いなどの日常的な金銭管理を手伝い、暮らしを支える事業。認知症高齢者や知的障害者などで判断能力が十分でない人が対象。全国にある社会福祉協議会が実施。利用料は社協ごとに異なる。
※タエさんのシリーズは今回が最後です。
(2012年5月11日 読売新聞)
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