[ひきこもり外来]理想の人間でなくていい
社会とのかかわりを避けて家に閉じこもる「ひきこもり」の若者は全国で70万人にのぼると推計される。そうした人たちの社会復帰を支援しようと、精神科医の
考え方の偏り解消、社会へ扉
「人と話せるようになるきっかけをくれました」
計10年間、ひきこもった経験のある新潟県のA男さん(37)は、佐潟荘で受けた治療について、そう話す。
A男さんがひきこもるようになったのは20歳の時。大学に入学したのを機に一人暮らしを始めたが、友達ができずに外に出るのがだんだんおっくうになった。 深夜までテレビを見たり、インターネットをしたりして、昼過ぎに起きる生活が4年続いた。このままではまずいと、ホームセンターでレジ打ちのアルバイトをしたり、倉庫で品物の検査をする契約社員になったりしたが続かなかった。30歳で実家に戻ると、春と秋に農作業を手伝うほかは家に閉じこもった。「他人とかかわるのが怖かった」
佐潟荘に通い始めたのは2011年3月。その日に入院を指示され、午前7時半に起き、午後9時にベッドに入る規則正しい生活が始まった。昼間はバドミントンなどのスポーツで汗を流した。週に1回、入院患者と課題を決めて話し合うミーティングも行った。
正社員、高収入、やりがいのある仕事――。A男さんは中垣内さんの診察を受けるうちに、自分が偏った考えにとらわれていることに気づいた。「理想の人間でなくてもよい」という当たり前の現実を受け入れると、少しずつ人と話すのが苦でなくなった。同年の7月末に退院した。
その後、コンピューターのソフトを作る職業訓練を半年ほど受講。今は仕事を探しながら、週に1回、外来に通っている。
中垣内さんがひきこもり外来を始めたのは2001年。受診者は、学生時代の不登校から抜け出せない人や、職場での人間関係が原因となった20~30歳代の元会社員が多いという。
外来では、まずうつ病など精神的な病気か見極め、必要があれば薬を処方する。このほか当事者が院内のロビーで同じ苦しみや悩みを分かち合う「居場所」や、親たちが情報交換したり、励まし合ったりする「親の会」を作り、治療に役立てている。
これまでに受診した人は約200人。このうち5割が接客アルバイトなどで働き、4割が高卒認定資格を取得したり、自動車学校に通ったりした。全体でも7割が何らかの社会復帰を果たしたという。
内閣府が10年に発表した調査で、ひきこもりの若者は全国に70万人と推計されたが、「ひきこもりに的を絞った精神科外来が全国に広がっているとは言い難い」(池田佳世・全国引きこもりKHJ親の会代表)のが現状だ。長野県の会社員男性(50)は月に1回、ひきこもりの長男(21)と佐潟荘に通っている。車で往復6時間かかるという。「こうした外来が全国に必要ではないか」と話す。
中垣内さんは「ひきこもる人は精神的な疾患を患っているケースが多い。無理に外に出したり、しかりつけたりせずに、まずは精神科の医療機関を受診してほしい」と指摘。「医療機関の側も根気よく支援を続けてほしい」と話している。
| ひきこもりに的を絞った治療を行う主な精神科医療機関 |
|---|
| ・ (電)0185・72・4133 |
| ・佐潟荘(新潟市) (電)025・239・2135 |
| ・南池袋クリニック(東京都豊島区) (電)03・5950・1881 |
| ・パティオちた(愛知県知多市) (電)0562・56・7830 |
(2012年5月10日 読売新聞)
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