日野原重明の100歳からの人生

2012年5月2日

開業医がよい家庭医となるには

 日本には、現在、診療所医師は全国医師数の約3分の1の約10万人あり、その大部は日本医師会の会員として登録されている。

 世界で英国、ドイツ、スウェーデンならびに日本は国が関与する国民保険制度があるが、アメリカ合衆国は国民各位による自由診療が行われている。

 医療が国営となり、政府(National Health Service: NHS)が医療システムを完全にコントロールしているのは、英国であり、外国からの旅行者でも、英国内で発病すると、歯科や眼科の視力調整以外は無料で医療が受けられる。

英国では家庭医が住民の健康管理

 英国では、地区の人口2500人を単位として1人の家庭医が住民の健康を管理し、発病した患者は、その医師にいつでも無料で受診できる。その医師が自分で治療できると思えば、その主治医となって、必要な薬を処方し、何かの処置を行うが、その開業医は自分では診断困難で自信を持って治療できないと思うと、地域の病院の専門医に送り、診断治療を預ける。家庭医はいわばゲートキーパーとなって、患者のために最も望ましい医療の管理を行うのである。この制度の原案は英国のベテラン開業医のDr. John Fryの考えを参考にしたもので、私は、彼の著書『プライマリ・ケアとは』を日本語訳で医学書院から1981年に出版した。

 日本には、1927年に健康保険法が施行されたが、日本の開業医は、英国の家庭医のように有資格の医師が指定されているのではなく、医師であれば誰でも一般診療でも、小児科や内科医としてでも、または専門家医として(循環器専門医や消化器専門医、また精神科医)として開業できるのである。日本では患者はどの開業医の診療でも保険で受けられ、またはいきなり大きな総合病院でも、大学病院でも、国公立のがんセンターでも保険証を持って行けば受診できる。

 しかし、これでは医療費を無駄に使うことになり、日本の今日の医療費は40兆円に迫ろうとしている。

プライマリ・ケア医学、日本でも卒後研修で修得を

 このような医療の無駄を防ぐには、開業医がプライマリ・ケア医学を卒後の医師研修中に修得する必要がある。

 そこで日本ではこのようなプライマリ・ケア医学を一定の研修病院で訓練されるように、プライマリ・ケア学会とか、総合診療医学会、その他の学会がそれぞれの卒後研修システムを発表してきた。それがやっと一つに合一される動きが出て、各学会が調節し、できれば総合臨床医とかその他の称号で統一しようと努力している。しかし、まだその諸学会の合議による名称の一致が見られないというのが現状である。

 英国や米国でいうプライマリ・ケア医とは、登録した医師に昼夜区別なくいつでも接触でき、よくある病気(common disease)の診断や治療法が受けられて、患者の家族にもよく説明し、いつでも往診でき、治らない慢性病でもきめられた処置ができ、登録された医師一人だけでなく、訪問看護師やリハビリテーション技師、栄養士とも協力して働ける医師を登録医というのである。

 患者にはなるべく時間をかけ、忙しい病院の外来での3分診療でなく、医師は丁寧に患者を診察し、最初からいくつもの検査を行わず、十分に会話のできる医師がプライマリ・ケア医、または総合診療医と呼ばれる医師である。

 日本医師会は、会員の開業医にこの資格を取らせるように勧めることに対しては、会員の間に納得しない医師もあり、日本医師会としての決断が困難な状況にある。

 日本では、開業している医師は自分の子どもを医学部に入学させ、いずれは自分の開業の後を継いでほしいと願う医師が多い。しかしその医師の子どもはたとえ医学部に入学しても卒後に専門課程を志向するものが多く、大学のどこかの講座制の中で教職の地位を望むが、それはなかなかかなえられず、それが数年以上続くと、結局は親の開業医院の後を継ぐことになるのである。しかし、総合臨床の訓練を本当に受けないで開業の仕事をすることとなると、これには受診者にはよくない医療が提供されることになる。

 そこで厚生労働省と日本医師会と学識経験者が会議して、患者中心の保険診療が行われる日が早く来ることを私は強く望んでやまない。

コメント

医療の在り方
[やまゆり]2012年5月5日

日野原先生とおっしゃってる、イギリスでの家庭医は日本もやれば医療費のむだと何時間も待って3分診療。
検査も最初からアニマル通りの検査で薬づけと、納得いきませんが、ついつい病院にいくのが億劫になります
医療体制を少しづつ変えていってもらいたいものです。

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
 編集方針はこちら

コメント投稿

(必須)
※20字以内
    
(必須)
※20字以内
    
(必須)
※800字以内

    

<編集方針>

 投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。
 コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。
 次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • 当ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

 以上、あらかじめ、ご了承ください。

プロフィール
写真
日野原重明(ひのはら・しげあき)
誕生日:
1911年10月4日
聖路加国際病院理事長
詳しいプロフィールはこちら
 
日野原さんが監修する「健康ダイヤルweb」はこちら
 
このブログが本になりました。詳しくはこちら
最新エントリ
最新コメント
カレンダー
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
バックナンバー
本文ここまで
このサイトの使い方

ニュースなどはどなたでもご覧になれますが、医療大全や病院の実力、マークのついたコーナーは有料会員対象です。

読売デジタルサービス

読売新聞では、ヨミドクターに加え、様々なデジタルサービスを用意しています。ご利用には読売IDが必要です。

頼れる病院検索

地域や診療科目、病名など気になる言葉で検索。あなたの街の頼れる病院や関連情報の特集を調べられます。

プレゼント&アンケート


医療ドラマ『プライベート・プラクティスS4』コンパクトBOX1名様にプレゼントします


YOMIURI ONLINE新着情報
yomiDr.記事アーカイブ

過去のコラムやブログなどの記事が一覧できます。

読売新聞からのお知らせ

イベントや読売新聞の本の情報などをご紹介します。

子育て応援団
ヨミドクター Facebook
お役立ちリンク集

すぐに使えるリンクを集めました。医療、健康、シニアの各ジャンルに分けて紹介しています。

発言小町「心や体の悩み」

人気の女性向け掲示板「発言小町」の中で、心や体の悩みなど健康について語り合うコーナー。話題のトピは?


 ・生理前のイライラについて

 ・食欲が落ちない中年女性(悲)

薬の検索Powered by QLifeお薬検索

お薬の製品名やメーカー名、疾患名、薬剤自体に記載されている記号等から探す事が出来ます。
⇒検索のヒント

yomiDr.法人サービスのご案内

企業や病院内でも「yomiDr.(ヨミドクター)」をご利用いただけます。

yomiDr.広告ガイド

患者さんから医療従事者、介護施設関係者まで情報を発信する「yomiDr.」に広告を出稿しませんか。

PR
共通コンテンツここまで