永広信治 徳島大脳神経外科教授

(下)「自他共栄」柔道の根本

 柔道や剣道、相撲など中学校で必修化された武道の授業は、技を磨くだけでなく、精神的な強さや礼儀を学ぶことも目的とする。〈柔道少年〉だった徳島大脳神経外科の永広信治教授(60)も柔道から多くを学んだ。永広さんは柔道の授業を通して多くの中学生に、社会で生きていくためのルールを身につけてほしいと願っている。

柔道の苦しい練習で培った粘り強さと集中力は、長時間の手術にも生かされると語る永広さん(手前)=長沖真未撮影

 

礼儀や規則を学ぶ

 <文部科学省は「柔道指導の手引」で、学校に対して礼儀や規則を守る態度など精神面の指導も求めている>

 必修化そのものは賛成です。熊本大柔道部にいた頃、柔道の創始者、嘉納治五郎先生(1860~1938年)から直接指導を受けた村山正明先生に、相手を思いやり、助け合う心を育む「自他共栄」の精神を教えられました。柔道は試合で勝つだけではないことを、教育の中で伝える意義は大きいと思います。

 私も柔道を通して、チームワークの大切さを学びました。団体戦は一人では勝てません。自分で勝ちにいくだけでなく、仲間を信頼して任せることも必要です。その経験から、医師になってからはチーム医療を最も重視しています。手術では、看護師や放射線技師らの支えがなければ患者は救えません。社会に出ても役立つような考え方や作法が、柔道から学べると思います。

個々の習熟度に応じて

 <一方、学校の授業では、柔道経験が浅い指導者も少なくない。安全面の不安も残る>

 危険性があるのは事実です。だからといって、中学の3年間受け身だけを学んで柔道の精神が身に着くかというと、違う気がします。投げたり、投げられたりして痛みや勝負の厳しさを知ることも大切だと思います。

 徳島では地元の柔道連盟所属の経験者が非常勤という形で授業に参加していると聞いています。安全管理の面で、熟練の経験者が支える体制が望ましいと思います。

 また医療の視点から、後頭部へのダメージが大きい大外刈りなどの技には細心の注意を払い、特に初心者には無理をさせないことです。個々の習熟度に応じた練習も必要でしょう。

日頃から病院と連携を

 <どんなに気を配っても万一の事故はあり得る。患者をすぐに処置できる高度な医療機関を、事前に把握しておくことも安全対策の一つだ>

 事故が起きてから、どの病院へ行けばいいのかと話し合っていては手遅れです。病院によっては救急患者を受け入れられない場合もあるのです。

 徳島大病院では1999年に脳卒中の救急施設を開設し、救急の脳卒中患者は絶対断らないよう提案しました。そのことが次第に地域で知られるようになり、昨年の受け入れ数は過去最高の383件でした。柔道事故などの外傷患者は隣の徳島県立中央病院と連携して対応しています。

 指導者や学校関係者は、自分たちの地域にはどのような病院があるのか、そして、どういう症状の場合はどの病院へ連れて行くかなどを把握し、日頃から病院との連携を深めておくことも必要だと思います。

 柔道を愛する一人として、これからも、心身を鍛え、かつ安全な柔道のあり方を、あらゆる角度から考えていこうと思います。(聞き手・浜中伸之)

2012年5月1日 読売新聞)

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