小川恵子の漢方で健康生活
2012年5月4日
恋患い 
春は出会いも多く、恋の季節です。恋をして、動悸(どうき)がして息苦しい思いをしたことが誰にでもあるのではないかと思います。恋患いって病気でしょうか?
恋が原因とわかっていても、ドキドキばかりしていると、胸が苦しくなって、検査で異常がなくても、心臓がおかしいのではないかと心配になりますよね。
落語に、若旦那の重い病の原因が、お宮参りに行ったときに他の家のお嬢さんに一目惚(ぼ)れしたためだった、なんて話もあります。私が大好きな映画「Love Actually」でも主人公の義理の息子が同じ学校の年上の女の子に恋をして、どうしていいのかわからなくなり部屋に閉じこもる、という場面があります。古くには、平兼盛(たいらのかねもり)が詠んだ「しのぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで」という句があります。どうして周りの人にわかってしまうのでしょうか。色に出る、とありますが、これは、顔色ばかりでなく、精神的・身体的変化が出てしまうことです。漢方医学では、「色」を診ることを「望診」と言って、たいへん重要視します。その原因が恋であっても、ストレスであっても、漢方医学的診断ができるのです。例えば、思いすぎて気逆(きぎゃく)・気鬱(きうつ)になり、長期間思いすぎて疲れてしまい、気虚(ききょ)になった、などと考えます。ですので、漢方薬も時には恋患いに良いかもしれません。
気逆によるドキドキ
ある漢方の大家の先生は、大学生だったとき、女性に片思いをしてしまいました。お師匠さんの家で勉強会に出ていたのですが、どうにも苦しくて勉強に集中できません。そこで、お師匠さんに桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)をもらい、勉強に集中できるようになったそうです。このように、気逆になって動悸がする場合は、桂枝加竜骨牡蛎湯や柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)を使います。また、水滞(すいたい)があって気逆によるめまいと動悸が起こりやすい場合は、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を用います。
気鬱によるドキドキ
思いが募って、ふさぎがちになった場合には、おなかが張っていれば香蘇散(こうそさん)か四逆散(しぎゃくさん)、喉に何か詰まった感じがすれば半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)が良いかもしれません。
疲れによるドキドキ
思いすぎて、疲れてしまったら、気血を補う補剤、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)がよさそうです。眠れなければ、帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)なども良いかもしれません。
もちろん、漢方薬だけで治るほど恋患いは単純ではありません。それに、いくら漢方外来とはいえ、「恋をしているんです」とは言いにくいのではないかと思います。でも、漢方医学では、その原因が何にせよ、動悸や胸が苦しいなどの症状があり、西洋医学的には異常がない場合には、漢方薬を処方できるのです。前述の漢方の大家の先生が、その後、恋を成就されたかどうかは、次回お目にかかったとき伺ってみようと思います。少なくとも、恋患いを克服して、漢方の大家になられたのは確かです。
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- プロフィール
- 小川恵子(おがわ けいこ)
- 愛知県名古屋市生まれ
- 金沢大学附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 和漢診療外来 特任准教授
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