Dr.北村の「性」の診察室ブログ
2012年5月4日
嘘みたい、ピルの取材が殺到

「どうしたのだろう?」というのが僕の率直な気持ちです。実は、低用量経口避妊薬(ピル)の取材が立て続けに起こっているのです。「今さら何を」とは申しませんが、あるテレビ局の取材では、「女性の生活を豊かにするライフデザイン・ドラッグ(生活改善薬)ともいえるピルに日本人女性はなぜ飛びつかないのですか」なのですから、『ピルの邦ちゃん』としては願ったり叶ったり。逆取材で、「どうしてこういうことに興味を持ったの?」と尋ねると、「番組の女子アナがピルの恩恵を受けているようで、それがきっかけになった」と。
取材は続きます。「日本人女性の中絶に対する意識は?」と聞くものですから、僕は以前英国放送協会(BBC)から取材に来られた女性リポーターの話を紹介しました。
「宗教的な縛りもなく、法律によって中絶が公に認められている国だから、日本の女性はピルを飲むことに消極的なのではないかしら。キリスト教の厳しい教えによって、中絶が厳しく規制されている私たちの国に比べて、妊娠したら中絶すればいいというような安易な風土があるように思います。私たち欧米の女性達が多少の副作用があることを承知でピルに飛びついたのはそのような理由からです」
そう指摘されてみると、「そうかなあ」という気持ちにもなります。中絶に関連する法律、母体保護法には中絶許可条件というのがあって、まずは妊娠22週未満であること、経済的理由、母体の健康、脅迫や暴力による妊娠とあります。中絶統計によれば、100%に近く「経済的理由」によって中絶が行われていますが、僕自身が行った全国調査の結果によれば、事実は、「相手と結婚していないので産めない」でした。
「日本人がピルに対して抱いている誤解・偏見って何ですか」
最たるものは、ピルを飲むと子どもができなくなる。「その通りです。ピルを飲んでいる間は確実な避妊が行われるわけですからね。妊娠する危険性は一年間で0~0.59%(ピルの臨床試験が5000人、5万周期にわたって行われた時の成績)」。でも日本人はピルを飲んだ女性はピルを止めた後に妊娠しづらくなると思っているのです。そんな女性に、僕はピルが開発されたときの話をします。動物実験では避妊効果があることがわかっていたピル。でも、人間ではどうでしょうか。その臨床試験を行うにあたり誰が協力してくれたかは明らかです。妊娠を望んでいる女性。不妊で悩む女性が、仮に失敗してもいいからとピルの服用を決めてくれたのです。排卵があるものの妊娠しない50人の女性が3周期分のピルを飲み、排卵が抑制されたことを確認しました。
その後ピルを飲むのを止めた女性のうち7人が続々と妊娠したといいます。一時的にせよ排卵を抑止したことで、その後リバウンド(反跳)が起こったのか、女性ホルモンが安定して入ったために生殖器が成熟した結果かはわかりませんが、ピルを飲んでいた女性がピルを止めた後に妊娠しづらくなるというのは誤解でしかないという、歴史が証明した一例ではないでしょうか。
ピルを飲むと太るという言い方をする女性も少なくありません。ピルの成分である黄体ホルモンは「水を引くホルモン」とも言われていることからそんな誤解が生まれたのでしょうが、僕のクリニックでは確認できません。太るかどうかはピルと言うよりも、食生活や運動量などとの関係の方がはるかに影響が強いからです。
ピルを飲んでいると出血がだらだら続くという誤解もあります。これも間違い。ピルはとても正直なお薬で、飲む時間がずれると、生理の始まる時間もずれるという女性がいます。ピルを一日1錠服用することで避妊効果は維持できるのですが、服用時間がずれると血液中のホルモン濃度が低下して出血(消退出血)してしまうことはよくあることです。飲む時間のずれが原因であって、ピルに問題があるわけではありません。
最後の質問は次のようでした。「どうしたら日本の女性達が今まで以上にピルを使うようになると思いますか」
ピルの最大のメリットは、女性が主体的に使える避妊法であるだけでなく避妊効果が確実なことです。そう考えると、ピルが普及するかどうかは日本人がセックスを生活の中でどう位置づけるかです。セックスを相手とのコミュニケーション手段として大切にできるか。国際的にも注目されている「セックスレス大国?」の汚名を返上できるかにかかっていると思います。
それに加えて、ピル服用に伴うメリットがたくさんあることです。卵巣がんや子宮体がんの発症率を極端に抑えられること、月経痛の緩和、月経血量の減少、何よりも、月経に振り回される生活から解放されて「月経を支配できる女性になれること」。受験、旅行、結婚式など、月経が重なることで不都合が生じる可能性があったら、ピルを上手に使うことで、早めに月経を起こす、あるいは月経を遅らせるなど自在なのです。だから、ピルのことをライフデザイン・ドラッグ(生活改善薬)と呼んだりするのです。
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- プロフィール
- 北村邦夫(きたむら・くにお)
- 自治医科大学医学部卒業後、産婦人科医として保健所など衛生行政の分野で実績を積み、1988年から日本家族計画協会クリニック所長。
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コメント
妊娠中絶は保険適用されないことを教えてくださった方
ありがとうございました。その後自分でも調べ理解しました。
それでもピルに保険適用を!と変わらず思います。
私がピルを飲み始めたのは就業していた時からですが、
なぜもっと早く飲まなかったのだろうと思いました。
・生理が来る日がわかる(会議中、予定外に生理が来、下着を汚してしまい周りは男性ばかり、替える暇もなく真っ青になった頃に比べると天国)
・避妊を確実に自分で選択できる(もちろん結婚後も夫にはコンドームを着用しないとしないよ、と、頼んでいますが)
・生理2日目、寝込みたいほどの激しい腹痛がなくなった
どれも若年層にこそ勧めたい利点ばかりです。
日本で長年の悲願であったピル承認が実現したのは1999年、男性用のバイアグラ承認との引き換え(バイアグラ承認は申請から半年のスピード承認で、申請当時のH首相が強力に後押ししたと言われている)であったことは記憶に新しいところです。男性政治家達は、女性をいまだに「産む機械」としか考えていないのです。
妊娠してしまった場合、結婚しないと産めないという文化なので、人口流産天国。女性の選択権や健康は二の次三の次なのですね。
女性の健康のためには、まず、コンドームを装着してクラミジアやHIVを予防することと低用量ピルで避妊することの両方を同時に勧める義務教育が必須です。
CDCの膀胱炎のガイドラインでは帯下や性病リスクに関する問診を同時にすべし、となっていますが、日本でそれを実行している内科医や泌尿器科医や産婦人科医は、北村先生以外にどれだけいるのでしょう?日本が予防医療後進国なのはワクチンだけではありません。
日本ではまだまだピルへの誤解が多くあります。
「妊娠しなくなる」「人工的に月経をコントロールすることは不自然だ」「太る」「入手が難しい」
また、残念なことに、中には「ピルを服用している女性は性生活が活発」と考える人も男女問わずいるようです。
個人的な話ですが、私自身もそのような誤解を受け、大変傷ついたことがありました。
ピルの存在は知られるようになりましたが、その効用を十分に知らないために起こる誤解を大変残念に思います。
学校の性教育でも先生をはじめ多くの生徒が十分理解するようになればと願っています。
ピル愛用者さんへ
日本の産婦人科医師のすべてがピルを好まないわけではなく、産婦人科医師の中でも温度差が非常に大きいのだと思います。こころの底から女性を大切にしてあげたいという気持ちがある産婦人科医師であれば、ピルに対して肯定的です。本当に女性の味方になってくれる良い産婦人科医師の踏み絵的存在がピルそのものかもしれませんね。
Yさんへ
“流産手術”には保険が適用されますが、(人工)妊娠中絶には保険が適用されません。すべて自費です。
月経困難症や子宮内膜症では、ピルの保険適用が既に始まっています。ただし、避妊目的ではピルは自費です。日本はピルを販売しているの製薬会社の卸値が高いため、なかなか安くなりませんけどね。
いつも当ブログ、楽しみに拝見(読)いたしております。
ピルのあまりにも遅すぎた承認には、北村先生の存在と情熱と執念が大きかったのは言うに及ばず、承認以降ここまで低迷し続けるピルのさらなる普及率の打破に北村先生の力はまだまだ必要です。
どうかマスコミの取材には体力の続くかぎり声を大にして応えていただき、せめて何パーセントという数値目標ではなく、本当に必要とされる女性達の手元にピルが広く行き渡るよう、広報し続けて下さい。ピルそのものの本質を知らずして、“卑しい”“体に悪い”“がんになる”“性感染症がまん延する”“環境汚染する”などと、未だ流布し続けている団体に大きな顔をさせてはいけません。
そして、どうかご安心ください。ピルの恩恵を被っている解剖学的に弱者である女性たち、そして我々があなたを裏方で支えますから!
30代既婚女性。失業中でありピルを飲んでいます。
>最後の質問は次のようでした。「どうしたら日本の女性達が今まで以上にピルを使うようになると思いますか」
私の答えは違います。
「ピルに健康保険を使えるようになること」
私は前述のように、収入がありませんが年間27000円の診察料と検査量、薬代年間30000円を負担しピルを飲んでいます。
ピルには保険が適用されません。全て自己負担です。
私が通っている婦人科は良心的で、市町村の健康診断結果を持参するとそれを参考にしてくれ、最低限の検査しか追加せず、
薬は一度に6ヶ月分処方してくれるため、診察料も最低の料金だと思いますが、これだけかかります。
失業中では痛い出費ですが、ここで妊娠したら子供を育てられませんので、やむをえません。
どうして妊娠中絶には保険が適用されるのに、ピルには適用されないのでしょうか。
ピルにも保険適用を。
日本の産婦人科医は患者のピル服用をあまり好まないようで、検診の折などにピルの服用について相談すると、「自然のままがいい」とか「長期間にわたって服用しているので、副作用の心配がある」などとコメントされることが多いです。
私は中国に長く滞在していました。中国は一人っ子生活の国ですから、ピルは処方箋なしに薬局で気軽に購入でき、価格も1月分200円程度でした。日本で産婦人科で処方してもらったことがありますが、「病気」ではないので、自由診療、しかもピル代も相当かかった記憶があります。
20年以上ピルを愛用しますが、生理がいつ来るのが分かるので安心ですし、月経前困難症が軽減されました。若い頃に子宮に装着する避妊具を産婦人科で入れてもらったことがありますが、不快感を伴いました。ピルのよいところは妊娠の不安がないので性生活を楽しめることです。パートナーもコンドームや荻野式よりも喜んでくれており、ピルをやめることに賛成しません。
日本でセックスレスや熟年離婚が報道されていますが、個人的な感想を述べると、ピルの愛用で性生活が楽しくなる部分が大きいので、そういった社会問題が解消できるのではないかとも思います。私はピルのお蔭で性生活を楽しんでいます。