ゴルフ 自然への感性鋭く
「ゴルフなんて、ブルジョアがやるけしからんスポーツだ!」
小説家で父親の新田次郎さんに、よくそう言われた。だから、中学、高校の部活動では、「体をぶつけ合う男らしいスポーツ」としてサッカーを選んだ。父の教えを忠実に守ってきた。
ところが、そのけしからんスポーツを今、楽しんでいる。
ゴルフに興味を持ったのは、実は20年前。その頃、長野県に建てた別荘がゴルフ場に隣接していた。体への負担も少なそうだし、持ち前の好奇心もあって、「いつかやってみよう」と思っていた。
そうこうしているうち、妻で翻訳家の美子さんが、プロについてゴルフの練習を始めた。遅れてなるかと、還暦を過ぎた頃、禁断のスポーツを始めた。もっとも、多忙で、プレーは年に10回程度だ。
「僕は勝つのが好き。ゴルフは勝ち負けがあんまり気にならないんで、ストレスにならない。テニスは妻とダブルスでやるから、失敗を押しつけあって、時々離婚寸前まで行っちゃうから。ゴルフだと、そういうけんかがないの。だから健康にいいんです」
それ以上に、ゴルフにはテニスと決定的な違いがあるという。自然の美しさを気づかせてくれたことだ。
春には芽吹く草花、秋には紅葉。コースによって、季節で変わる山々の様子に見入ったり雄大な海の眺めを楽しんだり。フェアウエーで、フカフカの芝の上を歩く心地よさにも驚いた。健康のために毎日散歩する自宅周辺のアスファルトと、感触が全く違う。
「年をとると感受性がにぶるというのは、全くの俗論。年齢を重ねるのに従って、鋭くなる感性がある」という。若い時は、自然に何の関心もなかった。山登り好きだった父に、何度も登山に誘われたが、断っていた。「もののあわれとか人間のはかなさ、自然をめでる気持ちとか、若い時より今の方が深く理解できる。そういうことに自信を持って、何でもやってみるべきだと思うようになりました」
ユーモアを交えた保守的な発言で知られる。ベストセラーになった著書「国家の品格」でも、「今の日本に必要なのは民主主義よりも武士道精神」と説いて話題になった。現在も新聞や雑誌への原稿執筆依頼が相次ぐ。「ゆっくり引退している暇がない」という。
今年は、父の生誕100年。1980年に亡くなった時、その父が新聞で連載中だった小説「孤愁――サウダーデ」を書き継ぐ作業に、現在取り組んでいる。父の死後、収集し続けてきた資料を昨夏から読み込み、父が書き残した原稿を、10日間かけて精読した。続編を書き始めたのは、3月のこと。秋には出版の予定だ。
「年をとってからは、気持ちを
これまでの著書は、数学の解説書やエッセーなどノンフィクションばかりで、小説の執筆は初めて。還暦を過ぎて、ゴルフを超える挑戦ではと聞くと、「今のところはね。でも、僕は百まで生きるから」。(塚原真美)
ふじわら・まさひこ 数学者。1943年、満州(現中国東北部)生まれ。66年、東京大理学部数学科卒。米・コロラド大助教授を経て89年、お茶の水女子大教授。2009年から同大名誉教授。著書に「若き数学者のアメリカ」「国家の品格」「藤原正彦、美子のぶらり歴史散歩」など。
(2012年5月1日 読売新聞)
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