吃音ドクター・菊池良和さんインタビュー全文(3)脳の働きに原因…研究で解明

 ――今春、吃音の研究で博士号をとられました。

 「九州大学には、病院内に脳研究や認知症などの治療を行うブレインセンターという組織があります。最新の機械がそろった施設で、各診療科の医師が集まり、研究をしています。私も、そこで、吃音者の脳の働きを調べる研究をしました。吃音者17人と、吃音のない18人の脳の働きを比較しました。すると、吃音者は、聴覚ゲーティング機能と言う、不要な音を排除する働きが弱いことがわかりました。つまり、普通なら無視してしまう音まで、感知してしまうため、実際には正しい言葉を話しているのに、間違ったように聞こえて、言い直している、ということがわかる結果でした」

 ――吃音は脳に原因があるということでしょうか。

 「はい。多くの人は、その点を誤解しています。専門家でさえ、脳の障害だと知らないため、これまで、吃音者に対し、間違った助言が繰り返されてきました」

的はずれな助言で、悪循環に

 ――どのような助言でしょうか。

 「まず、特に幼い子どもに対し、『ゆっくり話せば大丈夫』『もう1回、行ってごらん』と言い直しを求めることがよくあります。親が、話したいと思われる言葉を待ちきれずに、先に言ってしまうこともあります。そのような、マイナスの反応は、吃音の頻度をさらに高めてしまうことがわかっています。さらに、周囲が『親の育て方が原因だ』と言うこともありますが、そんなことはないのです。こうした的はずれな助言が繰り返されることで、ますます当事者は悩みを打ち明けられなくなってしまうという悪循環が起きているのです」

 ――何が大切なのでしょうか。

 「いくつかポイントがあります。まず、吃音は悪いコトじゃない、治さないといけないと思い込まず、吃音があってもいいんだ、とありのままの我が子を認めること、さらに、子どものころから吃音について隠さずに親子で話すことです。古くは、吃音は本人に意識させないことが大切、意識させることが吃音につながる、という考えがありました。でも、今はそれが否定されています。親子で話題にもしなければ、思春期になり、悩みが深くなった時に、誰にも相談できず孤独になります。私もそうでしたけれど、吃音の深い苦悩から解放されるには、長く苦しい道のりを『大変だったね』と共感し、『どもっても大丈夫』と言ってくれる存在が必要です。当事者同士でも良いし、親でも、医療者でも、先生だって良いんです」

苦悩理解し、共感することが大事

 ――医師として、そのような立場で吃音者に接しているのでしょうか

 「はい。吃音に悩んで受診する人の多くは、自分で思うほどどもっていないんですね。私と同じように、長年の付き合いで、上手に吃音を隠すすべを身に着けているからです。でも、そのような人に『全然どもってないよ。大丈夫』といって対応するのは良くありません。まず、苦悩を理解し共感することから始めます」

 ――具体的にはどのようにしていますか。

 「色々ですが、周囲への理解を求めることも重要です。先日、職場での悩みを抱える女性が受診しました。

 彼女は調子が悪い時は、吃音がひどくなり、電話に出ても最初の一言が出ない。だから怖くて電話に出なかったら、上司にとがめられたと言うのです。解雇や配置転換になったら困るので、吃音があるとは言えなかった。私は、医師として、職場に提出するための診断書を出しました。吃音がある、ということだけでなく、話すまで時間がかかることがあるので待って下さいと書き添えました。それで、当事者は安心し、周囲も理解が深まるのです」

 ――吃音は治るのでしょうか?
「大人では100人に1人とも言われます。2歳から4歳の子どもだと20人に1人の割合で発症しますが、成長につれて8割近くが自然に回復します。家族に吃音者がいたり、男の子だったりすると回復する確率は減りますが、まだ、どのような場合に回復するのか、わからないことが多いのです」(続く)

2012年4月28日 読売新聞)

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