宋美玄のママライフ実況中継

2012年4月25日

出産方法は誰が決める?

 今週に入ったあたりからかなり暖かくなってきたので、ベビーカーに取り付けていたフットマフ(ベビーカー用のおくるみ)を外しました。娘は日増しにぷくぷくしてきて、新生児の時にぶかぶかだった洋服がとうとう着られなくなり、ワンサイズ大きいものを着るようになりました。初めの1か月、娘が見た目に大きくなっておらず、母乳が出ているか不安な日々を過ごしていたことが懐かしく思い出されます。

 
ひたすら指しゃぶりをする娘です。鼻呼吸の練習に良いそうです

 前回の自然出産に関する記事には多くの反響をいただきました。いただいたコメントにお答えする意味でも、もう少し掘り下げたいと思います。

帝王切開か、経膣か

 いただいたコメントの中にもご意見がありましたが、帝王切開で産むか経腟分娩を試すか、自分の出産方法は自分で決めたいと思っておられる方は少なくないかもしれません。

 例えば、赤ちゃんが大きめだと言われていて、体力に自信がないなどの場合に「陣痛が来る前に帝王切開をしてもらいたいです」という妊婦さんもおられますし、陣痛が来たものの出産が長引いてバテてしまい「もうお腹を切って出してほしい」という妊婦さんもいらっしゃいます。

 こういった妊婦さんには希望通り帝王切開をするべきでしょうか。答えはイエスかノーではっきりと答えられるものではありません。帝王切開は原則的に赤ちゃんを救うための手術ですが、経膣分娩より母体には負担がかかります。経膣分娩と比べて出血量が多くなり、死亡率は予定帝王切開で約2倍、緊急帝王切開で約4倍になります。産後の感染症の頻度は約8倍、血栓症の頻度は7~10倍となります。

 いくら帝王切開が安全になったとは言え、経膣分娩に比較した合併症の多さを考えると、できるなら経膣分娩の方が母体に優しいということが理解していただけると思います。母体にこれだけリスクを伴う手術を、医学的適応がないのに妊婦の希望だけで行なうことは適切とは言えません。

医師の間でも割れる意見

 医師も水晶玉を持っている訳ではないですし、出産というものは終わるまではどういう結果になるか誰にもわかりません。妊婦が帝王切開を希望した時にはその通りにしなかったけれど、後に結局帝王切開になってしまうことや、経腟分娩に至ったものの裂傷が非常に大きくて後遺症が残ったり、赤ちゃんが元気に産まれなかったりするケースもあります。そうなった場合、医療側と妊婦さんの信頼関係が揺らぎかねません。

 昨年の日本産科婦人科学会で若手医師が企画した討論会で、医学的に適応のない妊婦の帝王切開希望例はどうするべきかというテーマがありました。

 主に大学病院などの大病院の医師たちは、「本人が希望しているという理由だけで、帝王切開を行うべきではない」と考え、個人開業の先生方は「希望に沿わないで何かあった場合、大病院なら患者は納得してくれるかもしれないが、小さな施設ではそうはいかない」という意見が多かったようでした。このような社会的背景もあり、産科医の意見も1つではないのです。

妊婦さんの希望と異なる場合

 逆のケースで、医学的に帝王切開が必要なのに妊婦さんが経腟分娩を希望する場合もあります。胎児心拍が危険なパターンを示しているのに、「まだたくさん子供を産みたいので、帝王切開は嫌です。今回の赤ちゃんのことはもういいのでお腹を切らないでください」という妊婦さんも実際にいます。

 妊婦の同意を得ずに帝王切開をする訳にはいきませんが、赤ちゃんを見殺しにするわけにもいかないので、帝王切開を受け入れてもらえるよう説得することになります。VBAC(帝王切開後経膣分娩)や骨盤位(逆子)については施設や担当医によって方針が違うこともあり、個別の意思疎通が必要となります。

 産科医療者はしもべでも、ボタンを押せばその通りに動く機械でもありません。医学的に適切な方針と妊婦さんの希望が異なった場合は、最終的に医学的に妥当で妊婦本人も納得できる出産になるように密にコミュニケーションを取っていくのがプロフェッショナルだと思います。

 「分娩方法を自分で選ぶということ」について書いてみたところ、思ったより長くなってしまいました。お産というものは奥が深く、簡単に語り尽くせるものではありません。逆に、シンプルな言葉でまとめてあるものは疑ってかかってよいと言えます。

 「リスクを理解していればどんなお産を選んでもよいか」ということについても書きたかったのですが、次回書かせていただきます。

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プロフィール
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宋 美玄(そん・みひょん)
産婦人科医、性科学者。
 
1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら
 
このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)について、詳しくはこちら
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