[本人の思い]山本きみ子さん(2)自然体で 隠さず生きる
診断を受けて、夫婦で決めたことが幾つかある。その第一が、「病気のことを周りに隠さない」ということだ。
「認知症だって病気の一つ。何も悪いことをしたわけではないので、自然体で隠さずに生活しようと決めた。隠したら知られるのが怖くて、どこにも外出できなくなる。夫は普段通り生活するのに、自分だけ家に閉じこもり、社会と切り離されてしまう。その方がつらく、恐怖に感じたし、病気にもよくないと思った」
きみ子さんは、そうきっぱりと話す。さらに、「隠し切れない事態になって傷つくのは自分。それより、隣近所に知っておいてもらえば必要な時に助けてもらうこともできる。この病気に偏見がまだあるのは分かっているけど、嫌だと思う人にはかかわらずにいればいいと考えた」とも。
そうした思いを、独立した3人の子供たちにありのままに伝えると、理解し、受け入れてくれた。診断から一年もたたない09年12月には、京都で開かれた全国の「認知症の人と家族の会」の集いに参加し、名前を公表して「私の思い」を発表した。
◇
普通の暮らしを続けていきたい。
そのためにも、現れ始めていた症状を考慮して、夫婦の間で生活のルールもつくった。
きみ子さんは物を覚えるのが難しく、特に最近の記憶が途切れ途切れになってしまう。認知症の中で最も多いアルツハイマー型の症状で、物忘れのほか、判断力や理解力の低下などが徐々に進む。完治はしないが、薬による治療や適切なケアで進行を遅らせたり症状を和らげたりすることができる。
そんなきみ子さんの生活を支えるため、居間にかけたカレンダーの日付の下に、勤務や診察、孫の面倒をみる日などの予定を書き込み、毎朝、確認するのを習慣にした。
もともと苦手な車の運転は、「方向が分からなくなったりしたら不安なので」と自分からやめることにした。また、食事や洗濯といった家事は、曜日ごとに当番制にして夫と分担。買い物は、金銭管理が必要なので、今後のことも考えて2人で一緒に行くことにした。
「もともと食事づくりも好きで、家事を分担するのも苦ではなかった」と雅英さん。ただ、一日に同じことを何度も聞かれたりすると、「当初は『さっき言ったろ』とどなってしまうこともあり、どう接すればいいのか戸惑った」と打ち明ける。
それでも、きみ子さんが先に入っていた地元の家族会に参加し、他の認知症の人や家族に接したり話を聞いたりして、どう対応すればいいのかを勉強した。その甲斐もあり、「今では逆に、他の家族の人にアドバイスする立場になったよ。夫婦で家族会の世話人もすることになり、私は副代表も務めている。皆さんの役に立てればいいと思って」と笑う。
前を向いて生きるきみ子さんの傍らには、常に一緒に歩み、理解し、支えてくれる夫の雅英さんの姿がある。それが何より心強い。
「もし主人に『病気が恥ずかしい』と言われ、家に閉じ込められていたら、もっと病気の進行が早かったかもしれないな、なんて思うんです。でも、私は今だって食事を作ったり洗濯したり、旅行にだって行っている。できることはたくさんある」。そう言うと、きみ子さんは雅英さんの顔をのぞき込み、「あなたに助けてもらいながらね」と微笑んだ。
(2012年4月11日 読売新聞)
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