[被災地のアルコール依存症]酔って大声、仮設で孤立
東日本大震災の被災地では、アルコール依存症対策も心のケアの重要なテーマの一つだ。アルコール依存症が心配される仮設住宅の住民を、保健師が定期的に訪問し、精神保健福祉士らで作る日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会(ASW協会)が支援する活動を続けている。(渡辺理雄)
保健師が定期訪問
宮城県石巻市で3月中旬に開かれた仮設住宅の飲酒問題を話し合う会議。同市の保健師が、アルコール依存症が疑われる男性のケースを報告した。男性は酔って大声を出すことがあり、苦情が寄せられていた。
「これまで訪問した時はいつも酔っていたのですが、前回は飲んでいないので、逆に驚いてしまいました。全く話をしてくれず、テレビを見ているばかり。私も早々に引き揚げました」
ASW協会会員で、仙台市の東北会病院勤務の精神保健福祉士、菊池
「『前の訪問で大声を出された時は怖かった』と言ってみると良かったですね。気持ちを正直に伝えることで、男性が心を開き、意思の疎通がうまくいくようになる可能性があります」
記憶が残る時に、男性に酔った時の状態を振り返ってもらう。それが健康な生活を取り戻したいという気持ちを呼び起こし、医療機関受診のきっかけになる。こうした好循環が生まれるには、訪問者との信頼関係が不可欠だ。この日は保健師と菊池さんの2人で男性を訪問することになった。
精神保健福祉士は、精神病患者が社会生活を送れるように支援する専門職。飲酒問題に関わる機会が多い精神保健福祉士が1986年にASW協会を設立した。会員は約200人。精神科病院や更生施設などでアルコール依存症などの患者を援助している。
阪神大震災の中高年男性の孤独死は、約3分の1が過度の飲酒と関係があるとされる。同協会は当時、仮設住宅での相談などの活動に従事した。東日本大震災での支援は、石巻市からの要請を受け、昨年9月から開始。2週間ごとに2人の会員が現地に行き、相談に応じたり、訪問に同行したりしている。
アルコール依存症と思われる仮設住宅の入居者で、同市の保健師が訪問しているのは約10人。震災前から問題を抱えていた人がほとんどだという。
ある保健師は「震災前は地域の人に助けられ、人間関係もかろうじてつながっていた。仮設住宅では『酒で騒ぐ人は出て行ってほしい』といわれ、孤立したせいでさらに酒量が増える悪循環に陥っている」と話す。
しかし、保健師が飲酒問題を正面から持ち出すと相手に拒まれ、それまでに築いた関係を絶たれる心配がある。ASW協会会員はこうした会話のさじ加減についてもアドバイスする。
冒頭の男性の訪問から帰った保健師は「きょうも酔っていなかったので、初めて『どなられて怖かった』と言えました」と報告した。
菊池さんは「男性は『酒で失敗してきた』と率直に話していました。この気持ちの変化が重要で、『もう飲むまい』という次の段階に進む期待が持てます」と指摘し、「そのうえで医療機関の受診や、アルコール依存症患者が支え合う断酒会の参加などにつないでいってほしい。断酒に向かう患者の思いに周囲が気づき、支えていくことが何より大切です」と話している。
| アルコール依存症 |
|---|
| 大量飲酒が習慣化し、健康を損ない、社会生活が破綻しても、自らの意思で酒をやめられなくなる精神疾患。再び酒を口にすると、再発する恐れがあり、酒を完全に断つ生活習慣の確立には、専門医療機関での治療や患者会の活動へ参加することが有効とされている。 |
(2012年4月12日 読売新聞)
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