精神科「アウトリーチ事業」とは?

 精神的不調を抱える人の家を精神科チームが訪れ、外来治療につなげるアウトリーチ事業が一部の病院で始まりました。精神疾患の悪化や自殺を防ぐ切り札になるのでしょうか。

チームで在宅患者を支援

 ――従来の訪問診療とどう違うのですか。

 「アウトリーチは、すでに治療を受けている人だけでなく、医療機関を一度も受診していない人や、治療を中断した人も対象とするところに特徴があります」

 「実施施設はまず、精神科医、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、心理士らで『アウトリーチチーム』を組織します。このチームが保健所などから情報を得て、必要と判断した人の家を訪問します。24時間体制で緊急時にも対応します」

 「この事業には、精神科の外来対応を充実させて入院患者を減らし、34万床と過剰な精神科病床を削減する狙いもあります。そのため実施施設は、自院の精神科病床について、削減計画の提出が求められます」

 「病床がない診療所や訪問看護ステーションも実施施設になれますが、その場合、都道府県が調整役を務めて、同一地域の病院に精神科病床の削減を求めます。例えば、訪問看護ステーションが事業に参加した山形県の庄内地方では、県立鶴岡病院が病床を減らします」

 ――いつから始まったのですか。

 「厚生労働省のモデル事業として、2011年度に7億円の予算で始まり、青森県、千葉県、京都府など15府県の24施設が参加しました。対象の病気は、幻聴や妄想が現れる統合失調症、うつ病などの気分障害、問題行動などが現れた認知症です」

 ――具体的にどのように行われているのですか。

 「山形県南陽市の公徳会佐藤病院は、昨年秋に取り組みを始め、現在は8人に対応しています。精神保健福祉士の牧野直樹さんを中心に、看護師、心理士らが保健所などと連携して訪問活動を続けています」

 「対応が難しい患者もいます。ある30歳代の男性は、3年前に精神疾患を発症し、1年半前から家に引きこもったままです。牧野さんが呼びかけても、パソコンゲームをし続けて、振り向いてもくれません」

 「玄関の鍵を開けない男性や、常に暴言を浴びせる女性もいますが、牧野さんは『家を訪問することで、対象者の生活環境を知ると、妄想と思っていたことが実は本当にあったなど、症状の理解が深まります。時間をかけて信頼関係を築きたい』と話しています」

 ――この事業に課題や問題点はありませんか。

 「同病院事務長の伊藤与志春さんは『昔の精神科の訪問診療は、患者に強引に注射を打って病院に運び、入院させる乱暴なやり方だった』と指摘します。アウトリーチ事業では、それは厳禁ですが、本当に入院治療が必要な人が見つかった場合、どう対応するのかなど、更に検討が必要です」

 「また子どもの場合、幻聴や妄想は精神疾患でなくても現れることがあります。これを統合失調症の初期症状などと誤診すると、その子の人生は大きく狂ってしまいます。『診断力が低い精神科医が少なくなく、誤診の被害者が増える』と懸念する声もあります」

 「2012年度には、実施施設はさらに増える予定です。実際に対応したケースを外部委員会が詳細に検証するなど、事業への信頼を高めるため、努力の積み重ねが欠かせません」(佐藤光展)

2012年3月19日 読売新聞)

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