(下)心のつながり 活力源に
それぞれ異なる体の不自由さを抱えた大勢のお年寄り。入浴やトイレの介助をするのは、慣れたプロでも体力と気力を使う仕事だ。大阪市住之江区の介護老人保健施設「はまさき」で研修する5人のインドネシア人は、それも「楽しい」という。それは利用者との「心のつながりが感じられるから」だと。利用者と一緒に、様々な趣味の時間を過ごすクラブ活動も元気の
入所者と習字をするエルランド・クリスティアントさん(中央)(大阪市住之江区の「介護老人保健施設 はまさき」で)=守屋由子撮影 |
雑談で日本語上達
お風呂の介助が一番好きというのは、フィトリアニ・ラマさん(32)だ。「利用者さんの体をきれいに洗うと、とても喜んでもらえる。自分の気持ちも満足するんです」
クラブ活動も、利用者の心身を癒やす重要な仕事だ。エルランド・クリスティアントさん(25)は、習字のクラブで、「早春」の文字に挑んでいた。隣で書いていた湯森公子さん(72)が、「もうちょっと引っ張ってー、少し細い」とアドバイス。エルランドさんは「おかげでだいぶきれいに書けました」と応じる。
「早い春? 早い冬はないの?」と問うエルランドさんに、赤川敏彦さん(71)が「早春は春の初めのことや。冬の初めは初冬やね」と日本語の指南。「質問されたら助言するけど、僕らのジョークもたいがいわかる」と赤川さんは会話を楽しみ、エルランドさんの日本語も上達する。
アリアニ・スティアシさん(36)は、体操クラブが好きだという。「私が踊ると、利用者さんは笑ってくれて、一緒に動いてくれる。喜んでくれるのがうれしい」
来日以来、はまさきの夏祭りではインドネシアの踊りを披露している。「ジャイポン」という祭りや結婚式で歌われる音楽に合わせ、女性陣はクバヤという色鮮やかな民族衣装をまとって、手足をしなやかに動かして踊る。「利用者さんや家族に、『今度、何踊るの』とよく聞かれるんですよ」
たこ焼き大好き
休みの日には何をしているのだろうか。「勉強ですね」とリオ・アンドリヤントさん(23)は即答するが、男性3人、女性2人がそれぞれ同居する暮らしでは、掃除や洗濯、自炊も忙しい。
時にはリオさんとエルランドさん、エカさん(26)らは街に出ることもある。「難波とかとてもにぎやか。買い物や食事をするとリフレッシュできる。たこ焼き大好き」とはエルランドさん。
休みは母国の家族と“会える”日でもある。インターネットのテレビ電話は安く安心して話せる。フィトリアニさんは8歳の息子、6歳の娘の成長が楽しみだ。「息子はパイロット、娘は水泳選手になりたいと言っています。子供の顔を見て話すと、あしたもあさっても頑張ろうと思える」と口元をほころばす。
悩み、良い将来を
5人は皆、
一部過激派のテロで誤解もあるが、リオさんは「大切なのは宗教の違いでなく、人の心がつながることです」。
5人の将来の目標は、もちろん、日本で介護福祉士になること。女性2人は「子供と会いたい」と願う一方、「日本で働いて子供を立派に育てたい」という強い思いを持っている。
ひょうきんな男性陣には、利用者から「男前なのに、彼女いないの?」と軽口も飛ぶ。エカさんは「遠くにいます」。実は東北にやはり介護福祉士候補のインドネシア人の彼女がいて、今年は結婚も考えている。「母国には家族がいる。結婚すれば新しい家族ができる。利用者さんも自分の家族です。どうすれば三つの家族とうまくやれるか、じっくり考えます」。将来は悩ましいが、輝いてもいる。(聞き手 古川恭一)
(2012年2月27日 読売新聞)
カルテの余白に 最新記事 一覧はこちら
- (下)総合的チーム医療めざす(2013年3月31日)
- (中)放射線医学発展の恵み(2013年3月24日)
- (上)「病」と同時に「患者」を診る(2013年3月17日)
- (下)喫煙できない環境作り急務(2013年3月3日)
- (中)ネットで禁煙マラソン(2013年2月24日)
- (上)禁煙外来を国内初開設(2013年2月17日)
- (下)養護教諭 積極関与を(2013年1月6日)
- (中)粘り強く寄り添う(2012年12月30日)
- (上)摂食障害 低年齢化に警鐘(2012年12月16日)
- (下)寄り添う姿勢 伝えたい(2012年12月2日)
