出生直後の「カンガルーケア」
赤ちゃんを裸のまま、母親の乳房の間に包むように抱っこする「カンガルーケア」。母親の満足度も高いが、出生直後の新生児に実施中に、呼吸停止など容体が急変するケースも報告されている。安全に行うために何が求められているのだろうか。
急変に備える体制 必要
――カンガルーケアは、どのようなケアですか。
「本来は、早産で小さく生まれた赤ちゃんのためのケアとして始まりました。日本では、1996年にNICU(新生児集中治療室)で導入されました。治療を受けて症状が安定した赤ちゃんを母親が抱っこします」
「今、問題になっているのは、正期産の新生児へ行うケースです。出産直後の母親が、生まれたばかりの新生児を抱っこするもので、正しくは『早期母子皮膚接触』と呼ばれます」
「肌と肌の触れ合いで、母子の絆が深まり、母乳育児がしやすくなります。こうした利点が、母乳育児を熱心に支援する助産師を中心に認識され、助産院から病院まで、あらゆる施設に広がりました。日本未熟児新生児学会が2010年に実施した全国調査では主要施設の78%で行われていました」
――ケア中に容体が急変する事例はこれまでどれぐらいありますか。
「国内で、26の急変例が報告されています。いずれも蘇生処置が必要になった重いケースで、3例が死亡しました。ほかにも、訴訟が起きたことで判明したケースもありますが、詳しい実態は明らかになっていません」
――「カンガルーケアは危険なのか」と心配する母親もいますが、どうでしょうか。
「そもそも、生まれてすぐは、どんな新生児でも、胎外の環境に適応しようとする時期で、呼吸や心臓などの働きが不安定なため、急変する可能性があるのです」
「日本未熟児新生児学会の全国調査では、誕生時に医学的に問題がないと判断された新生児約32万人のうち56人に、退院までの間、死亡したり、蘇生が必要になったりする深刻な急変が起きました。その84%が出生後48時間以内に起きていました。ケア中の急変もありましたが、『カンガルーケアにより急変が起こりやすいとは言えない』と分析しています。英国の国際研究グループも、同様の結論でした」
「ただし、こうした研究や、国内の急変例の報告からは、急変時にスタッフの見守りがない、新生児の呼吸を不自由にするような不適切な姿勢で行われていた、など安全対策が不十分なまま行われていた問題が指摘されています」
――では、どんな対策が必要なのですか。
「昨年12月に日本産婦人科医会が出した通知では、施設ごとにどんな状態の母子にケアを行うかなど実施基準をつくることや、ケア中に助産師らが母子を見守ったり、蘇生技術を持った人員を配置したりすることを求めました。母親自身も、安全対策も含め、十分な説明を受けてその効果や注意点をきちんと理解することが大切です」
「ケアの利点は揺らぎませんが、しっかりとした安全対策を講じぬままに導入した施設も少なからずあったのは事実です。新生児を担当するスタッフすべてが、新生児の体調は不安定で急変しうる、という認識を持ってほしいと思います。ケアの有無にかかわらず、どんな状況でも、決して新生児の安全を母親任せにせず、医療スタッフがこまめに顔色や呼吸などに変化がないかを見守り、急変に対し、少しでも早く対応できる体制をつくる必要があります」(中島久美子)
(2012年2月20日 読売新聞)
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