災害弱者の安否、迅速把握
自治体が名簿や所在マップ
東日本大震災のような災害発生時には、高齢者、障害者などの「災害弱者」が置かれた状況を素早く把握し、避難させることが、犠牲者を最小限にするカギを握る。その体制作りのため、独自の取り組みを始めた自治体もある。(梅崎正直、写真も)
二重の体制
ドーンと突き上げる衝撃で目を覚ました。大震災の翌日未明、長野県北部に被害を出したマグニチュード6・7の地震。滝澤茂義さん(62)の脳裏によみがえったのは、4年前の記憶だった。
その瞬間、突風に襲われたと錯覚した。みるみる路面に広がる地割れを飛び越え、滝澤さんは職場である新潟県柏崎市の西山町事務所へと車を走らせた。
2007年7月16日午前、新潟県で発生した中越沖地震。市と合併した西山町の震度は6強だった。事務所長の滝澤さんがまず取りかかったのは、高齢者、障害者の安否確認。事務所にあるリストを使い、約40ある町内会の長や民生委員が同日中に全員の無事を確認し、必要な人は介護施設に移動させた。町の犠牲者はゼロ。「顔見知りばかりで、災害時に誰が誰を助けるかも決まっていた。連携がうまくいきました」
この地震の経験から柏崎市は昨年、全域で、要援護者名簿の作成を始めた。希望者のみが記載されるが、11月時点で2344人と、援助が必要な人の8割を集めた。これを使い、町内会が安否を調べる。「協定を結び、ケアマネジャーにも確認してもらう。二重の体制です」(介護高齢課)
事前に担当者
全国の市町村が災害弱者の情報確保と個別の援護計画まで含む避難支援計画の策定を急いでいるが、肝心なのは、実効性あるものにすること。柏崎市のほかにも、独自の取り組みが生まれている。
「頼る人がいないから、とても怖くて……」「これからは私たちを頼ってください」
東日本大震災で震度4だった神奈川県大磯町の馬場地区では、住民による自主防災組織の副会長を務める伊藤勇さん(69)らが、高齢者を訪問し、ランタンやランプを手渡した。大磯ロングビーチは目と鼻の先。東海地震が起きれば津波の被害もあり得る。昨年6月には、町が持つリストをもとに災害弱者の所在を表したマップを作成、それを使った安否確認訓練を実施した。災害時に駆け付ける担当者もあらかじめ決めている。
阪神大震災を経験した兵庫県西宮市では、GIS(地理情報システム)を使う。パソコン画面の地図上の表示をクリックすると、一人ひとりの身体の状態やかかりつけ医などの情報も見られる。松山市では、緊急通報装置を、独り暮らしの高齢者と高齢者のみの世帯に貸し出している。4分の1がマンション住民の埼玉県川口市の場合、フロアごとにリーダーを決め、エレベーター停止状態での安否確認、救出、物資の搬送などが行える体制を目指す。
未登録者も記載
自治体の要援護者名簿への登録は通常、希望者のみだが、災害が起きれば登録、未登録の区別はない。千葉県野田市は、未登録者を含めた全体の潜在的な名簿を地区別に作成。「災害時に限り自治会長に提供し、素早い対応につなげたい」(高齢者福祉課)とする。
しかし、大震災の被害を目の当たりにし、防災、避難の考え方は変更を迫られている。大磯町馬場地区では公園に集合後、災害弱者を地区の介護施設に運ぶ考えだったが、「大津波が来れば地区全体が水没する。高台にどう素早く避難させるか……」と伊藤さんの表情は厳しい。原発を抱える柏崎市では「10キロ、20キロ圏内退避となった時の受け入れ施設の確保を考える必要がある」という。通信が断たれることも想定せねばならず、いくら備えても課題は山積みだ。
(2011年5月2日 読売新聞)
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