笑顔まるまる アニマルセラピー

2011年3月18日

高層階から転落! 猫の目線でやさしさを

 早朝の電話を宿直の獣医師が取ると、「先生、クーが落ちてしまって。急いでそちらに行きます!」。

 

 猫のクーちゃんのお宅は確か高層マンションの19階。スタッフは緊急事態を予想して準備を急ぎます。

 間もなくクーちゃんを抱いて、飼い主のYさんが赤坂動物病院に到着。Yさんは「分からなかったのです。いつ落ちたのか…」とショックを隠せない様子です。

 タオルの中のクーちゃんは、体を硬くして意識はなく、頭頚部を強く屈曲し、耳から血液が流れ出し、既に表面は乾いています。大腿部の皮膚が切れて、大腿骨の一部が突出していました。

 それから一週間、集中治療をしながら、クーちゃんは少しずつ意識を取り戻していきます。二度に渡る大腿部の手術も終えた37日目、まだ十分に足に力は入りませんが、Yさんに抱かれて退院して行きました。

 東京の中心部にある私の病院では、過去にも11階から、14階からと、転落事故は絶えません。ほとんどの高層マンションでは、ベランダに犬や猫を出すことを禁じています。ですが、Yさん宅では、気候の良い日に「ほんの少しだけ」と開けた8センチほどの引き戸のすき間から、クーちゃんは出てしまったのです。

 きっと猫たちは、隣のベランダに乗り移りたくて目測を誤ったり、ベランダの手摺りに飛び乗って滑ったり、飛んでいる小鳥を捕まえようと本能的に飛んでしまったり…。室内で暮らすようになった近年の猫たちは、運動能力も低下し、外で危険な体験を重ねながら遊び方を覚えていく経験もほとんどないのです。

 クーちゃんはまだ6か月と若く、回復力も高かったこと、また落下地点が植え込みであったことが幸いでした。

 動物たちは、何才になっても5才以下の子どもと同じです。「うちの子は大丈夫」はありません。どうぞ気を配ってください。

 そして、同じことは人間にも言えます。小さな子供やお年寄り、体の弱った方々が、うっかりすると大事故になりかねないような場所が、身の回りにはたくさんあります。小さな猫が安心して暮らせる気配りは、だれもが住みやすい環境作りにつながると考えます。

 
 



柴内裕子 獣医師。赤坂動物病院院長。日本動物病院福祉協会顧問。現在は、千葉県こども病院、横浜市立大学附属病院、都内の信愛病院、聖路加国際病院のCAPP訪問活動でチームリーダーを務める。東京都港区在住。

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