緩和医療医・大津秀一さんインタビュー全文(5)死をタブーにせず、家族と話し合う
――「自分の生きた証しを残さなかった」と後悔することがあるといいます。生きた証しとは何ですか。
大津 自分の人生で成し遂げたことがある、という思いがあれば、生きた意味や証しになると思います。それを残すためには、人生で成し遂げるべきことを考えて、それに向かって努力することが必要です。
――生きた証しを残したという意味で、思い出深い患者はいますか。
大津 中学生と小学生くらいのお子さんがいて、50代だった女性は、「子供に何か残したい」と言って、病床で子供たちの顔をスケッチブックに描きました。手先が器用で、デザインの仕事をしていた彼女は、フクロウの粘土細工も作っていました。それを同じくアートの仕事をしている妹さんが焼いてきて、病室にフクロウが増えていく。並ぶと、彼女の家族のように見えました。
病室で短歌をつくり、生まれてからのことを歌にした女性もいます。手紙やビデオレターに残す人もいます。自分自身にとっても「伝え終えた」とバトンタッチをした気持ちになるし、残される家族にとっても精神的に大きな支えになります。
――死をタブーにしないで、家族と率直に語り合うための方法やヒントはありますか。
大津 「おやじ、もしもの時なんだけどさ」などと切り出すのはなかなか難しい。デリケートな話題ですからね。逆に、親のほうからそういうことを言いだしても、子供たちに「何言ってるんだ」と話を止められたりする。そういう時に、「この本なんだけど」と、僕の本を取り出してくれたらいい。実際にそうやって使ってくれている方もいるようで、とても嬉しく思います。
――そういう会話をしていた家族は、そうでない場合に比べて、最期を迎える時に違いますか。
大津 本人や家族も、私たち医療者も楽です。うそをつくのは疲れるし、良心が痛む。率直に真実を語り合ったほうが、その時は衝撃を受けても、結局はみんなで支えあっていくことができる。一度は家族がぶつかり合っても、それを機にわかり合い、まとまることもあります。腫れものに触るように接するほうが、患者は孤独になるし、家族も後悔することになる。
――普段、死について考えるきっかけはありますか。
大津 家族や親しい人などの身近な死を大切にすることではないでしょうか。それを機に、自分の人生を点検することも重要だと思います。
子供がいる40代の女性の死に際して、夫としゅうとめが、「トラウマになるから」と言って、子供を母親の病床に呼び寄せなかった、ということがありました。その子は、母親が死んだという実感がないまま大人になります。母親の存在があいまいなままくすぶり続け、かえって精神的にマイナスになるのではないか、心配です。(続く)
(2011年2月28日 読売新聞)
こころ元気塾 最新記事 一覧はこちら
- 住職が始めたグループホーム もう一つの「家」を求めて(2013年5月23日)

- [生殖心理カウンセラー]不妊治療で心のケア(2013年5月16日)
- 性的少数者の診療所・井戸田一朗医師(4)エイズの今(2013年5月12日)
- 性的少数者の診療所・井戸田一朗医師(3)ゲイであること大切に(2013年5月11日)
- 性的少数者の診療所・井戸田一朗医師(2)全国から患者が(2013年5月10日)
- 性的少数者の診療所・井戸田一朗医師(1)なぜ開設したか(2013年5月9日)
- 不安の聞き取り 医師の役割(2013年5月2日)
- 介護の悩み 分かち合い(2013年4月25日)
- ツイッターに詩 災害時の孤独埋める言葉(2013年4月18日)
- 嫌な面 前向きにとらえる(2013年4月11日)
