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[解説]社会的入院解消に一般病床の改革急務
医療の必要性が低いのに病院に入院し続ける「社会的入院」。こうした患者が多い「療養病床」の削減計画の凍結を民主党政権は打ち出したが、不適切な入院を生む構造を温存したままでは、急激な高齢化に対応できないことは明らかだ。一方、そもそもの原因は一般病床にあるとの指摘も強い。社会的入院解消には何が必要か。(社会保障部 針原陽子、小山孝、野口博文)
不十分な看護
「病院にずっといたら、夫はきっと寝たきりになっていたと思います」
茨城県に住む女性(67)の夫(75)は、昨年秋、誤えん性肺炎で近くの病院の一般病床に入院した。症状は落ち着いたが、入院当初につけられた尿の導管はそのまま。「口から食べてもよい」と主治医が言いながら、点滴が続けられた。女性は毎日病院に通い、車いすに乗せて散歩に連れ出した。この間、病院からは、在宅医療を提供するクリニックの紹介など、退院を支援する動きはなかった。
入院から2か月がすぎ、看護の不十分さにたまりかねた女性は主治医と口論となり、その日のうちに退院した。入院前、少しは歩いて移動できていた夫は、車いす生活になった。
「夫は、私がいたのでまだよかったけれど、中には、寝かせきりにされて自力で立ち上がれなくなった患者さんもいた。病院に入れたきりにする家族もひどい」と女性は憤る。
人手不足
社会的入院は、面倒をみる家族がいなかったり、利用できる介護施設やサービスがなかったりして、医療以外の理由で必要のない入院を続けることとされる。厚生労働省の調査では、療養病床に最も多いという結果が出されるなど、これまでは主に療養病床での問題ととらえられてきた。
これに対し、「一般病床の社会的入院の方が、問題が大きい」との見方が、研究者や医療関係者の間で広がっている。
中でも問題とされるのが、看護師の配置が十分でなくリハビリスタッフも少ない中小病院などだ。
安易に経管栄養などをつけられ、一日の大半を狭いベッド上で過ごすことになる高齢の患者は、筋力の低下や認知症の発症・悪化を起こし、元の病気が治っても自宅には戻れない状態になってしまう。
「療養病床での社会的入院を減らし、介護施設などの受け皿を増やしても根本的な解決にならない。社会的入院を生み出す構造そのものを改めなければ」と「全国在宅療養支援診療所連絡会」事務局長の太田秀樹医師は指摘する。印南一路・慶応大教授らが2006年度に行った実態調査をもとにした推計では、療養病床における社会的入院の患者数は15万人、一般病床では17万人に上った。
早期リハビリ
ではどうすればよいのか。昨年、社会保障制度の改革案をまとめた政府の社会保障国民会議は、一般病床はリハビリスタッフなどを増やすことで平均在院日数を短くすべきだと提言した。
モデルもある。長野県松本市にある相沢病院(471床)は、患者に早期リハビリを施すことで知られる。130人近くの理学療法士や作業療法士らが、脳卒中であれば発作から24時間以内にリハビリを開始し、毎日、主に病室や病棟で訓練を行う。重症患者が多いにもかかわらず、1か月以内に退院して自宅に戻る割合は6割を超えるという。
原寛美・総合リハビリテーションセンター長は「早期リハビリが重要なのは、肺炎など内科疾患を持つ高齢患者も同じ。早くリハビリを始めればそれだけ自宅に帰れる可能性も高まる」と説明する。
一般病床から早期に退院し、自宅に戻った人が地域で暮らし続けられるようにする方策も必要だ。24時間往診する在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションの拡充などが欠かせない。
また、家族がいないなど、自宅に帰れないものの在宅生活が可能な人の「受け皿」を増やす必要もある。07年4月にオープンした高齢者専用賃貸住宅「ココチケア」(東京都葛飾区)は、33人が暮らし、1階にある在宅療養支援診療所の医師が、医療処置が必要な人の部屋を定期的に訪れる。開設当初から住んでいる藤田朝子さん(91)の場合、心不全や肺炎を起こした時も、酸素療法や点滴などを受け、入院せずに済んだ。「医師がすぐ駆けつけてくれるので心強い」と満足そうだ。入居者の中には、末期がんの痛みを緩和する処置を受けながら、ここで亡くなった人もいる。
さらに、療養病床の位置づけをはっきりさせることも必要だ。厚労省が06年に出した病床数の削減計画に、医療関係者らから反発が相次ぎ、民主党は政権公約で計画の凍結を掲げた。だが、高齢者の療養の場のあり方の議論はこれからだ。
印南教授は「高齢者は医療と介護両方が必要な人が多く、なるべく普通の生活をしながら適切なサービスを受けられるようにするべきだ。在宅医療・介護の充実を図りつつ、特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養病床の整理・統合に向けた議論が必要だ」と話している。
一般病床と療養病床 一般病床は、主として急性期治療を行う患者を入院させる病床。医師の最低基準は患者16人に対し常勤1人、看護職員は3人に1人。平均在院日数は17.7日(09年6月)。療養病床は、主として長期の療養者のための病床。医師(患者48人に対し1人)、看護職員(6人に1人)のほか、介護者もいる。平均在院日数は173.9日(同)。
「家で看取る」体制の充実 必要
厚生労働省の調査では、2008年に亡くなった人は114万人。30年の死亡者数は1・4倍の160万人に増える見込みで、急増する高齢者が人生の最期をどこで過ごすかが重要な問題となる。
08年の調査では、93万人が一般病床や療養病床などの医療機関、14万5000人が自宅、4万人が特養や有料老人ホームなどの老人施設で亡くなっていた。
立教大の高橋紘士教授(地域ケア論)は、「今のままなら死亡者数の増加にあわせて病床数も増やさなければならないが、それは財政的にも、医療者の有効活用の点からも無理がある。慢性期の治療が多い高齢者の場合、病院は、人生の最期の場としてふさわしいかどうかという議論もある」と指摘。高齢者住宅の増設と、
[プラスα]「医療」「介護」病床が並立
1973年の老人医療費無料化により高齢者の社会的入院が急増し、70年代後半からそうした患者を受け入れる「老人病院」が各地に広がった。
93年には長期療養するための場として「療養型病床群」が設けられ、介護保険創設後の2001年、「療養病床」と名前を変えた。
介護保険創設の狙いの一つは社会的入院の解消で、療養病床すべてを介護保険適用にすることも議論された。だが、根本的な解決は見送られ、医療保険適用の「医療療養病床」と介護保険適用の「介護療養病床」が並立する状態が続いている。
厚生労働省は医療療養病床から介護療養病床への転換を促したが、計画通りに進まなかった。そのため、06年度、介護療養病床を11年度末までに廃止して老人保健施設などに転換させ、医療療養病床も12年度末に約22万床(当初は15万床)まで減らす削減計画を公表した。
(2009年11月3日 読売新聞)
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